生きて死ぬ私たちの「元気」のこと~「動く」ということが私たちにくれるギフト~chapter.5 現代人たちはもっと動いていい

意識下をタッピングする

小笠原:レジリエンスって企業研修でもオーダーが多いトピックなんですが、レジリエンス=ストレスへの耐性、って自律神経の調整能力でもあるんですよね。一般的には心のタフさ、回復力、みたいなことに思われますけれども。

谷:精神と体って本当に別のものではないと思うんですね。

ヨガをしているときに、今自分がどうやって呼吸しているのか、今自分がどっちを 見ているののか、今自分がどういう風に体を支えているのか、そこに集中すること によって、1回ちょっと意識下のところにタッピングする。

身体全体の血行が良くなってるということは脳に対しての血液の供給も良くなっているはずで、その状態で意識下のところにタッピングする。そうすると普段ずっと考えていてぜんぜん答えが出なかったことが、もしかしたらそこですっと答えが出てくるかもしれないし。

脳と体、精神って、別々ではなくて、すべて繋がっているものですから、どちらか片方だけが成立するということはなかなか難しい。いろんなストレスに対してのレジリエンスを高めていくためには、ある程度の自律神経系の強さというのが必要になってくるので、そのためにはベースになる基礎体力はすごく必要だと思います。

心と身体の「ライザップ」プログラムがあるとしたら

小笠原:実は以前企業から、うつ病で休職していた方を復職させるにあたって、「心と体を鍛え直すライザッププログラム」を作れないかという相談を受けたことがありまして(笑)。

まずうつ病の理解からして突っ込みどころが満載な話なのですが、まずは自分が「リラックスしているのか」「ゆるんでいるのか」を分かるようになる、というところからスタートして、最終的には自律神経の調整力を上げていくというプログラムになるかなと思うんです。

本質的には「セフルケア」のプログラムなのですが、企業はそういう言葉を好まないので「レジリエンストレーニング」と呼ぶことにして(笑)。

過緊張で神経が凍りついている人は、まずは体をしっかり動かして、凍りついた神経系を揺さぶって溶かしてあげるということからスタートなんですよね。お二人なら、このプログラムどう作りますか?

谷:ライザッププログラム、難しいと思いますね。ライザップというと短期間というのが付いてくるみたいな感じがします。

小笠原:その人たちを回復させてあげられるプログラムが丁寧にできるとしたらどんなことができると思いますか? たぶん私たちのストレス耐性にも役立つと思う。

谷:まず寝てもらうのがいいでしょうね(笑)。

小笠原:そもそも寝られない、寝られるまでになるのにもう一段階必要な人もいる。

谷:人類学者のダニエル・リーバーマンという人が『人体600万年史』という著書 で、人類がどんなふうにホモサピエンスとして発達してきたのかを書いています。

人体600万年の進化を見る

もともと我々人間というのはご飯を食べようと思ったら動かないと食べられなかったじゃないですか。今みたいにコンビニ行ったら買えるわけではないから準備をしなければいけない。

あるいは動かないと誰か他の動物の食べ物になったりするわけで。生きていくためには動いてないと生きていけなかったというのが現在は逆になっているねと。食べたから今日動かないと、とか順番が逆になってると。

小笠原:ほんとですね。

谷:何百万年もかけて進化してきた人間の歴史から見たら、今みたいな生活体系になったのって、ほんのちょっとじゃないですか。そのちょっとの間では現代の生活の変化に適合できるほど我々の体は進化していないんですよね。

だとすれば本来動いてないと生きていけない人間がじっと座ったら悪いことが起きてくるんじゃないかなというのは想像がつく。自分がやりたい事からで構わないから動いていくということはそういった意味でもすごく必要ですよね。

小笠原:そうですね。「アクティブレスト」っていう言葉がありますが、体を静かにして休めるのとは違ったタイプの休息で、動いて循環させてあげることによって疲れを取るという休息の仕方があるという提唱です。

私たちの疲れって体を動かしたことによる疲れではなくて、頭脳とか神経の疲れだから、そこから回復するには体を動かしてあげた方が本質的な休息になっていくケースが有る。

循環が滞っていることによって感じる疲労感は、休んでじっとしているより動かしたほうが逆に回復するということですね。「動かすという休ませ方」みたいな発想は、現代人にとってとても大事ですよね。

谷:両方のバランスがすごく大事だと思います。

身体的に、あるいは精神的にかかったストレスからより回復を早めたいのであれば、血液の循環を良くするのが一番じゃないですか。だとすればアクティブにレストを取ることができれば、それによって回復が早まるということは確実にあると思います。

さらにそこでしっかり眠れれば。 動くのがいいのは分かった。 では、何からするか???

小笠原:今すぐ動かなきゃという気分になってくるんですけど(笑)。

私もここにいる3人が何かヨガや、エアロビクスに出会って、動くことで健康に関わ るということができたのって、継続できて、自分が好きだと思えるものとのしあわせな出会いがあったからだと思うんですね。

でも、動かなきゃなとわかってるんだけど、実際に何からやったらいいのかがわからない、あるいはちょっと行ったけど継続できない、という人が結構世の中には多いんじゃないかと思うんですけど、そういう方たちにどんなアドバイスがありますか?

谷:散歩がいいんじゃないでしょうか。いろんなものを見たりとか。

人間の脳が発達したというのは二足歩行になったことで、長距離が走れるようになったんです。踵の形状とかで、全速力で筋肉を使わなくても結合組織のリコイルとかをけっこう使えるので、効率よく長く歩けたりとか長く走れたりとかするんですよ。

持久力を持って動けること。それによって酸素がたくさん体の中に供給されること。血液の循環が良くなること。その結果として獲物が得られて、タンパク質とかが体に入ってくること。栄養が体にちゃんと入ってくること。その組み合わせがあったことで、人間の脳がどうも発達したらしいんですね。

脳が発達して、せっかく2本の足で歩ける機能を持ってるんだから、歩いた方がいい んじゃないか。そこからでもいいんじゃないでしょうか?

小笠原:そういう話をすると絶対に、週に何回ぐらい、何分ぐらい歩いたらいいんですか、と言われると思うんですけど(笑)。(会場うなずく)

谷:決まりはないと思います。

みなさんたぶん継続できなくなるというのは、気張りすぎるんですよ。最初に気合を入れすぎちゃって疲れたみたいなことになってくる。そうするとその次をやってみようという気持ちになかなかなれないんですね。

トレーニングのときもそうなんですけど、プログレッションをしていく、段階的に進めていくということがとても大事なこと。体って新しいストレスを受け取ることでそれに対して適合はするんだけれども、そのストレスが今あるレベルから離れすぎると壊れちゃうんですよ。

今あるレベルとギリギリちょっとだけ、ちょっと頑張る必要があるかな、くらいのストレスが体に与えられることがより強くなっていくということには必要。

最初に何かスタートするときに今までぜんぜん歩いてないんですという人が急に1時 間歩こうと思うとちょっと嫌になっちゃうと思うので、5分とか10分でもいいと思 います。

そこから少しずつ少しずつ少しずつ、やっていくといいんじゃないかと思います。

Chama:ぴったり合うやつに会えるといいですよね。楽しくないと始まらないし続 かないから。自分が楽しめるぴったりにどうやって出会うかという話で、あなたに これがピッタリ合うんじゃないというのを聞いてくれる、見てくれる、そういうの を提案してくれる人がいたらいいんじゃないかなと、ヨガインストラクターの立場 では思いますね。

小笠原:そういうコンシェルジュ的な人大事ですよね。

Chama:今は間口が広いから、ヨガには行きやすいかな。最初からいきなり臨床心 理士さんの所に行くとか、パーソナルトレーナーって、なかなかやっぱりハードル があるから。ヨガの先生達がこれがいいんじゃないと、そっちがよかったら送り出 してあげるみたいな人たちがいると機能するのかなと思います。

小笠原:ほんとにそう思います。 ゴロゴロ床を転がるだけでも十分!

Chama:あとは手軽にできるのがいいと思うんですよね。例えばゴロゴロ転がっ て、仰向けになってゴロゴロと床を転がるだけでも十分良い運動になると思うし。

例えば毛布とかを丸めてそれを腰の所に置いて、くるくるとか。飽きっぽい人だったら少しバリエーションを作って。

あとはある程度パターン化された決まっている流れみたいなのを一個じゃなくて複数。ある程度フォーマットが決まっているものじゃないと考えてそこでストップがかかっちゃうので。考えないでできるような何か合うのに会えるといいんじゃないかなと思います。

小笠原:そういえば、佳織さんに何をすればいいのですかねってご相談したときに私も言われました。和葉さんはあまり考えないでできるスポーツねって。

これはこの筋肉が…とか考える余地のない、もっとざっくりとして体に負荷がかかるようなもの推奨だと。

谷:考えるにもいくつかの種類があるんですよ。論理的に考えるとかすごく注目して考えるというのと、一瞬で何か反応しなければいけないようなもの。

今私はボクシングのトレーニングを始めてるんですけどいいですよ。楽しいです。一瞬は考えなければいけないんですけど、動くと自分が発揮した力というのはリコイルで自分に戻って来るんですよね。それを受け取っていると、生きてるな!という感じがするんです。

自分が発揮した力が自分に戻ってきている。体を感じるというか、発揮している力が自分に戻ってくるというのを振動で感じる。その辺は面白いですね!

そんなことを急にやらなくてもいいと思うんですけど(笑)、なんらかのバイブレーションが自分の体に伝わってきて、それを感じられることというのはすごく面白いんじゃないかな。

小笠原:自分の生命力に出会う感じ、分かります。

谷:地球を歩いていて、散歩していて、そこからバイブレーションがもしかしたら感じられるかもしれないし。ヨガのプラクティスをしていてそこでバイブレーションが感じられるかもしれないし。

床の上をゴロゴロ転がっているとそうすると皮膚は色んなものに触るのでそうすると皮膚から体にすごくいっぱい情報が流れてくるんですね。そういったものを感じ取ることができるかもしれないし。

生きているイブレーションを感じ、カラダの記憶を書き換える

谷:今生きてる物ってすべて振動・バイブレーションを持っているじゃないですか。そういうものを自分が感じられたり気持ちがいいもので、あまり考えずにできる、最初はそういうものが一番ですね。

Chama:アシュタンガヨガの創始者のパタビ・ジョイスという先生のインタビュー に一度同伴した時に、アシュタンガ・ヨガでどう変わるんですかって質問したら 「オートマチック」だと。インドっぽいですよね。

自動的にというのか、自然にというのか、そこを狙って構成されているシステムのように感じます。体に記憶させるアプローチというのは、個人的な考え方かもしれないけど、体の記憶みたいなものを少しずつ組み換えてくれるんじゃないかなと感じてるんですね。

僕らは頭でもって意識に働かせるものだけではなくて、頭の中にも無意識があって、体にもやっぱり無意識があって、溜まってるものがある。そこを書き換えてくという働きが体に対して記憶させる中で起こってくるんじゃないかな。

小笠原:そうですね。思考じゃなくて、自分が動いたことのフィードバックとしての手応えであるとか。その中に動物性というのが目覚めて、なんかこう生きてる!という感じって、動いてた中で出会ったなと思いますね。

Chama:よくヨガのポーズも動物の名前が出てくることが多いですけど、僕たちの なかの動物の部分を引き出してくれることがあるかもしれません。

小笠原:そうですね。「人間業」をやりすぎてる感じしますよね、われわれ (笑)。

谷 佳織(たに かおり)
Somatic Systems 株式会社代表取締役
Kinetikos 株式会社代表取締役
Gray Institute/ FAFS
ACSM/CEP
公認ロルファー®

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1985年、グループフィットネスインストラクターとして活動を開始以来、アメリカ、日本のヘルス・フィットネスのフィールドにおいて、アクティブに教育活動を続ける。
機能解剖学、軟部組織へのアプローチ、ストラクチュラルインテグレーション等のトピックに関する指導者として高い認知度を持ち、NSCAジャパンをはじめとした各種教育団体の継続教育プロバイダーとして、日本各地にて数多くのセミナー指導とともに、グレイインスティチュート、TRX、DVRT、CFSC各種教育団体の教育プログラムの指導を提供する。
夫であるトラビス・ジョンソンとともに運営するオンライン教育情報サイト:キネティコスのコンテンツ作成、及び翻訳担当。海外講師を招聘した教育イベントの開催、及び米国で開催する解剖クラスの運営補助など、健康/運動指導に関わる専門分野の継続教育の提供に携わる。


chama / 相澤護(ちゃま / あいざわ まもる)
株式会社TYG ファウンダー 代表取締役
ニュートラルライト合同会社 代表社員
Gate8 プロデューサー
ハタヨガティーチャー(E-RYT500)

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レゲエクラブ経営、CM制作会社勤務等を経て、父親の介護をきっかけにヨガ講師となる。
ヨガスクールTOKYOYOGA(表参道・渋谷・伊豆高原)、フリーペーパーYOGAYOMU、ヨガ手帳、ヨガブランドSAMAVSM、たまごヨガ、ヨガキャラクターPADMANKEYなど多彩なツールを通じ、ヨガの普及や、健康かつ持続可能なライフスタイルを提案。 “アシュタンガ・ヨーガ 実践と探求” “リストラティブヨガ 完全なリラクゼーションそして再生” “YOGABODY アナトミー・キネシオロジー・アーサナ” などの書籍を監修・監訳。
現在は、東京を中心に国内外でハタヨガ指導をしつつ、パーキンソン病を患う母親と同居し、パーソナルスタジオでもある自宅にヨガティーチャーやボディワーカーを招いてのライブ対談番組・水曜チャマの部屋のホストをつとめる。
『人生にヨガを』TYG: http://www.tokyo-yoga.com/corp
『Delight your home』GATE8: http://gate8.jp
『ヨガで世界を明るくする』chama公式WEBサイト: http://www.chama-yoga.com