スペシャル対談 藤本靖×小笠原和葉「身体が持つ可能性」~ 第3回 死に向かう波に波乗りする

2018.8.27

第3回 死に向かう波に波乗りする

「波乗り」する技術

──(小笠原)ときどき、「ボディワーカーなのにヒール履くんですか?」とか言われたりするんですけど、ボディワーカーだから履けるんだと思ってるんです。
どれぐらい負荷がかかっていて、今日一日ヒール履いて大変だった、っていうのを体で感じられて、
それを立て直すすべを持っているから、出来るやんちゃの幅が広がるという感覚がある。
カラダに悪いことをしないという保守的なヘルシーさじゃなくて、やんちゃできるっていうことが
どっちかっていうと健康かなと私は思っています。

(藤本)自分が生きてきてどういうふうな健康状態を維持するとか、いつどんな病気にかかるとか、いつ生命が途絶えるか。
そういう大きな波には抗えないですよね。波自体をコントロールすることはできないんです。
一般的には、健康になろうと思うと自分をコントロールしようとするじゃないですか。
病気にならないようにちゃんと検査も受けて、それに応じた節制した生活をする、要するにコントロールするという発想。
それを否定する気は全然ないんですけど、僕は全く違う考えを持っています。それは自分にしか分からない、自分の体にしか分からない、より内発的な自分のコアの生命っていうこととつながるっていう感覚を持つことで、一番の当事者になるというかね。自分の体に対しての。その具体的な技術がひとつはボディワークなんだと思います。

──その、「波乗りをする当事者になる」という事がまさに健康3.0ですね。健康を目指さない、健康がゴールじゃない体との付き合い方っていうか。
WHOの定義じゃないですけれど、健康って言った時大方の人がうっすらとイメージするのが、病気がない、不具合がない、っていうことだと思います。だから特保のお茶を飲もうみたいのってそもそもそういう発想ですよね。
でも、もう100年生きるってなるとそれでは健康の定義として物足りない。いわゆるダイバーシティーとかいって、多様な生き方が許容されてくるような時代になるとしたら、もっと自分の可能性や内発的な感覚や、そこにつながっていくきっかけとして体を使ったほうがよくて。
そこが新しく私たちというか、普通の人が会得したらいい体と関わり方だと思っています。
一番旨味が残っていてまだあんまりみんなが発見していないところというか。

生きて死に向かう私たち

──健康って絶対負け戦じゃないですか。なぜなら最後は全員死ぬから(笑)。

死について言えば、みんな潜在的に、いつ死ぬか分からないという恐怖があるから、それに対していろいろ身構えて、何とか今病気を避けようって考えてるけど、格闘家とか兵隊とかが死を覚悟するとき、すごい弱い状態らしいんです。
それは死を覚悟しなきゃいけない、コントロールできないことに向かって行くために無理やり決意するってすごい不安な状態になる。
でももし、そこで自分がちゃんとその波に乗って行くっていうふうな感覚を持てれば、恐怖や不安は無くならないまでも、身構えない境地に近づけるのかも知れない。自分が今、生きてるところから死に向かっていくっていう、その波をちゃんと見据える。
そのために仏教とか、そういうものの知恵が役に立つこともあるんだろうなって思います。

──体・・・体っていうか、命との関わりですねっていう感じがしました。

そうですね、自分のね。

──体と心とかっていうと、それがあっての私みたいな感じで、きれいに因数分解できたつもりでいましたけれど、心と体以外のもの、もしかして環境との繋がりとかも含めたもっと外周のものを命というのかなと思いました。

人との関わりの中で、それを発見することができるんじゃないかと僕は思っていて。
いろんな可能性、オプションが増える。それは結局器が大きくなるっていうことだから、自分の。そうすると、どんな状況でも安心感を持って、社会的な関わり(=ソーシャルエンゲージメント)が出来るわけじゃないですか。
この間成瀬雅春さん(※)と対談したときに、すごい面白いことをいっぱい教わって。『月刊秘伝』で記事化されているので読んでほしいんですけど。
成瀬先生は人間関係に身構えがないんですね。

──闘争・逃走反応とか超えたところで人と関わる。

そういういのを超えたところで人とダイレクトにつながれる。
藤田一照(※※)さんも、ちょっとタイプが違いますけど、ああいう全方位に対してのオープンで無邪気な感じっていうか。
憧れますよね。ああいう大人がいるって。

──本当ですよね。オープンですもんね。

すごく良いメンターっていうか。歳を取れば取るほどああやって開かれていくっていうのは素晴らしいなって思うんです。
お2人ともすごい共通してるのは「エンターテイン」。それは人もエンターテインさせてるし、自分がまずエンターテインしようっていう姿勢があるところが僕がすごく学びたいところなんですね。
そうそう、なんで健康じゃなくてもいいかって思うと、遊べるからですね。成瀬先生がおっしゃってたんですけど、お腹がすごく痛いとかっていうのは、どう乗り越えて次のフッとした瞬間に行けるかっていうのを、楽しめる。
だから、何があってもそれは次に楽しい事につながるから、みたいな話をされていて、本当にそれはすごく共感しました。

──それを楽しめる心持ちでいるには、瞬間の振れ幅はあるかもしれないけど、平均値としての健康値は高い必要がある気はしますね。

確かにそうです。痛くて、つらいばっかりの波だと疲れますよね。

──社会的なポジションとか名声とか上がっていけば上がるほど、それを守りに入る人が多いと思うけど、その中で個人としてエンターテイン、人とのつながりも自分のことも楽しめるっていうのって、体が開放されてないとできないメンタリティーですよね。

<子育て>

神経系が本当に緊張とリラックスの波を上手く描いていけるために、遊びっていうのはすごく大事だと思っています。
緊張とリラックスっのブレンドがあるわけじゃないですか、遊びっていう中に。
ただ怖い人から追っかけられてるのはすごい恐怖だけど、それが鬼ごっこだと面白くなるわけじゃないですか。
その鬼ごっこを楽しめるっていうことが、健全な神経系を育てている。
だから、子どもは無意識に遊ぶっていう行為をやってるのはその神経系をつくっていってるのに、それを阻害させるようなことをするっていうのは本当にもうひどいことだなって思うんです。

──子育てしてみると、心の発達が面白いんですね。人間としての原初的な欲求とか、好きなものができるとコントラストとして嫌いが出てくるとか、機嫌が良いが出てくると、その反対側の機嫌の悪さも深まっていくみたいな、グレーがだんだん
光と闇に分離していく様とか。
セルフセラピーもすごいんですよね。うちもう7歳なので、靖さんのところはまだ1歳半ぐらいですよね。ここから先、いっぱいそういうシーンが見られると思うんですけど。
うちの娘は仲良しの保育園のお友達がいなくなっちゃうってなった時に、その子がいなくなって寂しいみたいな捉え方、認知はまだできないけど、1日中保育園ごっこでその子の役をやらされてた日があったんです。
寂しいとか、明日からいないんだって予期不安とかもないけど、何か空いていく心の隙間みたいのを埋めることを遊びの中で消化する。すごい叡智だなと思いました。

本当にそう思いますよね。だから、引き出しの中をひっくり返して全部散らかすとかって、当たり前のことだと思うんですよね。
それをしなくなるっていうのが学習だと思われているけれど、そんなふうにはあんまり僕は思わなくて。

──イヤイヤ期とかもすごいですよ。物をバーンって投げるとか、スプーンとかをバーンって投げるとか。

それはうちの子もよくやっています(笑)。

──もうすごい、パワーを確認してるんだなって思いますよ。乳飲み子でいるしかなかったところから、自分にパワーがあって、これを投げるっていう力を行使できるとか、関係性の中でどこまでやれるのかってその境界を確かめるとか。
生き物が目覚めていくってすごいなと思って。多分あの中でやっていることを、大人になると、複雑な作戦の中でやってるだけで、結局やろうとしてることって同じなんだろうなと思うんですが。
何でも遊びにするクリエイティブさがすごいですよね。

でも従来の育児論とかって、こうしなきゃいけないっていうお母さんに対するメッセージが、いろんな先生がいろんなこと言ってて。
例えば予防接種をどうするかとかみたいな話とかも、親として混乱させられることってありますよね。情報がありすぎで、頭でいくら考えても判断できない。子どもの一番の専門家は、その子のお母さんだから、お母さんの感受性が高まるような体へのアプローチが必要なのに、そういう情報は実はあんまりなくて。先生たちが言ってることは自分の育児理論が正しいからこうしなさいって教えていることが多い。
1個1個はもちろん役に立つんですけど。

──しかも専門性の中ではそれが正しかったりするから、余計にやっかいなんですよね。

そうなんですよ。だから混乱させられてるっていう。

──締め付けも厳しいし。

まさに和葉さんがこのMagellanでやろうとしていることっていうのは、子どもがどうしたがってるかをお母さんがちゃんと読み取っていってあげられるっていうこと、その力ですよね。
それは、子どもと自分の関係性の中から見えてくるものを探していくっていうか、そういう関わり方っていうこと。専門家がいう育児の理論じゃなく。

──ボディワーカーって、そういういわゆる正しいと世間で言われてること、っていうものからステップバックしていけるところにいるっていうのもいいかもしれないですよね。
みんなが健康のこととか子育ての情報で混乱するのって、方法論がいっぱいありすぎて、しかもそれが対立してるものがそれぞれまかり通ってたりすると、どっちが正しいんだろう、何で評価したらいいのかがわからなくなるっていう点。全部の中で一番正しいものを探そうとするとすごく混乱しますよね。
1個1個詳細に並べて比較して選ぶんじゃなくて、ステップバックして、そもそも私がなりたい健康はとか、心と体とか、それすら解体して命のレベルでいうとどうだとかみたいな、引いていく視点のほうがこれから大事だろうなって思います。

あとボディワーカーの人は、必ずそういう情報を、自分の実感とのすり合わせをすると思うんですね。
だから、これは正しいかもしれないけど、自分の感覚としてはこうだ、っていう自分の感覚を結構信じれるというか。
その距離感を持っていろんな情報を自分なりに編集してると思いますね。そういうものはもしかしたら世の中にとって役に立つ情報になるかもしれないですよね、むしろそっちのほうが。

──まさにそうですね。まるでサイエンティフィックではないけど実践的なもののほうが、サイエンティフィックだけどただのお話になってるものより全然普通の人見たら役に立つと思うので。実感からスタートできるものってすごいですよね。

多分生身になったら、そっちのほうが説得力はすごいありますから。
Magellanの今後、楽しみにしていますよ!
  
──ありがとうございます!

※成瀬雅春:ヨーガ行者。ヨーガ指導者、精神世界・スピリチュアル系の著作家。成瀬ヨーガグループ主宰。
※※藤田一照:曹洞宗僧侶。http://fujitaissho.info/

藤本靖(ふじもとやすし)

ボディワーカー、身体論者。

東京大学経済学部卒業後、政府系国際金融機関で政府開発援助(ODA)の業務に関わる。

東京モード学園ファッションスタイリスト学科修了。その後、 東京大学大学院で身体教育学を専攻し、

脳のシステムや心と体の関係について研究。

米国Rolf Institute認定ロルファー™。

「神経系の自己調整力」に基づく「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。

簡単で、効果が高い疲労回復のためのワークが注目され、Google米国本社の研修プログラムでとりあげられる。

心身の健康の専門家としてTV・雑誌など掲載多数。

著書に、ベストセラー「『疲れない身体』をいっきに手に入れる本」(講談社)、など。