「座る」ということそのものを見直したい
小笠原:みなさん今日はお集まりいただきありがとうございます!
さっそくなんですけれど、今日のテーマは「椅子」です。我々ボディーワーカーなのでオフィスワーカーのクライアントの方から「腰痛」についてご相談されることが多いですよね。
ビジネスパーソンの方からご相談の多い腰痛は、「どうやったら良くなりますか?」、つまり痛くなったあとのストレッチとか、温めるのか冷やすかなどの対処法を聞かれるか、整形外科に行ったら「首の形が悪いから仕方がないって言われた」ってあきらめている方もけっこういます
それで、どんな椅子使ってますか?椅子の高さはあってますか?ってお聞きしても椅子と腰痛の関連があまりピンときていないみたいなんですね。そりゃ長時間座っていれば痛くなっちゃうよね、みたいな感じで。どういうエクササイズをしたらいいのかとか、どういう治療がいいのかというところに関心が向いているけれど、「座る」ということそのものを見直したりとか、教わったりとかする機会って思えばないんですよね。
コロコロが付いている椅子ってオフィスに結構多いですが、あれを固定してもらっただけで腰痛が良くなってびっくりされる方もいます。
座るとか、椅子の選び方とか、そういったことについてみなさんのお話が参考になるんじゃないかと思ってこういう企画にしました。
どういう椅子がいいかとか、どう座ったらいいかとかよりも、今ある椅子しかなくて調整もできないとしたらどういう工夫ができるのか、どういうところに気をつけたらいいのか。座るということの周りにあるいろんなことを今日はみなさんと探求したいなと思ってお集まりいただきました。
それぞれ軽く自己紹介していただいていいでしょうか。では孝太郎さんから。
扇谷:扇谷孝太郎です。よろしくお願いします。ロルフィング®とクラニオセイクラルとソマティック・エクスペリエンシング®とその他なんかいろいろ・・・(笑)
小笠原:あやしいオリジナルを・・・魔法使いの技を・・・(笑)。
扇谷:いろいろやってますけれど、僕はけっこう椅子はむずかしいなと思っていて。「この座り方がいいんですよ」と言われても、人によって言うことが違っていたりとかして。だからそのへん新しいアイデアが今日聞けたら嬉しいなと思って参加させていただきました。
河野:河野由紀と申します。よろしくお願いします。私は15年くらいピラティスのトレーナーとしてエクササイズを教えるということを通じて心と体にたずさわってきたんですけれども、5年くらい前からオステオパシーという手技療法をやっています。
そんなご縁で参加させていただいたんですけれども、案外私もオステオパシーという治療をさせていただいてからというもの、座る仕事なんですね。ピラティストレーナーとしてエクササイズを見てた時よりも、座る時間がとても長いことにハッと気がつき(笑)、それによっていろいろなことに気がついて。椅子は今とっても大事だし、座り方も大事だと。
あと学校に今行っているので朝の9時から夜の7時までお昼休みとちょっとした休憩を除いてほとんど1日座りっぱなしという日があるんですね。そうするとものすごく体調が悪くなったりします。それは小中高と学校で使われている椅子なんです。たぶん私の身長とか体には合っていない。だから座っている時間が長いのってつらいなって身をもって経験しています。働く人たちが普段気がついていないけれど、なんか不調だと思っていることの原因が座り方とか椅子とかお仕事する環境にあるかもしれないと、ちょっと注目していただけるきっかけになればいいなと思います。
小笠原:由紀さん身長何センチですか?
由紀:156くらい。
小笠原:同じだ。チビッ子にとっては椅子って・・・ねえ!ほぼすべての椅子が大きいという感じなんですよね(笑)。
鮫島:そうですか?2センチくらいの差だけどそんなに、そんな風に感じます?
小笠原:宴会場の椅子で1日講座受けたりすると、高くて。椅子の上であぐらをかいたりとか。
河野:お食事でレストランとか行っても、たいていなんとなく自分の居心地がいい状態でないことが多いんですね。でもそれが習い性になっちゃって、足を椅子の足に引っ掛けたりとかなんかやってたんですけど。でも両足をちゃんと床についてみると体って安定するんだな、とか発見することは多いと思うので。みなさんとシェアできたらと思いますけど。
小笠原:ありがとうございます!
椎名:椎名亜希子です。私もロルフィングをやっています。個人のセッションでいらっしゃる方で多いのは、オフィスワークをしていて「どういう風に座ったらいいですか?」っていうのはよく聞かれるんですよね。だから、椅子の高さだったり机の高さだったりそういう説明をしたりとか、こういう風に座ると無理がないよ、とかお伝えしたりはしているんですけれど。やっぱりセッションの中でやるのは時間に限りがあったりするので、ワークショップを開いて体の使い方についていろいろお話するっていうことをやっています。
うん、でもダントツで多いですね。「座り方を知りたい!」っていう人。
そもそも人の体って動くことがベースになっている
椎名:そもそも人の体って動くことがベースになっています。だからじっと座っているように見えても呼吸をするということで微細な動きが起きているし、内臓が活動していたりとか、いろんなものが動いているわけだから、実体が静止するということはありえなくて。まずそのあたりの誤解というか、知らない情報があるかなって思うんですよね。座るって、じっと良い形でいる、そう思って「座る」一箇所に固定するという座り方をしてしまうと、しんどくなるということはあるのかなと思います。
小笠原:良い座り方、という正解の、正しい、スタティック(static=静的)な位置があるって思っていると、そういうことでもないかもしれないということですよね。
椎名:あともう一つ思うのが、座り方って2種類あって、呼吸系のリラックスするための座り方っていうのと、あと作業するための座り方。特に作業するための座り方ってやっぱり動的な要素が座っている中に必要になって来るから「座る=スタティック」ではない。
小笠原:動的な要素ってたとえばどういうこと?
椎名:たとえば座っている時にお尻だけで座っているわけじゃなくて足も支えになってちゃんと体を支えてくれているっていうのが一番大事な要素で。立っていても座っていても、足がどれだけ背骨をうまく支えてくれているかっていうのがすごく大事になってきますよね。
特に脳みそ使う作業をするような場合、ちゃんと頭のバランスが無理なくいいところに落ち着くことで脳みそもうまく働いていくことができるし、覚醒度も上がっていくと思うので、常に微細な動きをうまく土台が支えているんだっていう感覚が大事だと思います。いろいろものに手を伸ばしたりとか、書いたり、取ったり、どこも止まっていないという状態。
小笠原:なるほど。ありがとうございます!あ、未央さんも自己紹介します?
鮫島:ボディートークというボディーワークをやっています。あとは和葉さんと一緒にマゼランを作らさせていただいたりとか、孝太郎さんの解剖学のクラスを主催させていただいたりとかしてます。
小笠原:この中では一番ふつう寄りの人です(笑)。
鮫島:そうですね(笑)。ボディートークがそれほど構造的な部分からのアプローチをする施術ではないので。なのでみなさんに聞いてみたいこともたくさんあるんですけれど、そもそも「座る」って人の体にとってどんなことなんでしょう?
そもそも座るってどういうこと?
鮫島:人間が赤ちゃんとして生まれて、ハイハイして立ち上がって・・・という流れの中で、前に孝太郎さんが「椅子に座るということそのものが人体にとって不自然なこと」っておっしゃっていたのが印象的だったんですよね。
扇谷:言ってましたか、そんなこと(笑)
鮫島:そもそも、そんなに不自然なことって思っていないから、どれだけ体にとって負荷だったり無理を強いていることなのかなと。先ほども「足で背骨を支えている」という話を聞いて「えっ、そうなの!?」みたいな(笑)。子どもとか足ブラブラさせてるけどな、と。
扇谷:結局、椅子に座るという動作をふつうにするのって猿とかゴリラとかはやらない動作なんですよね?。まあ訓練したらやるけれども。元々の人間の進化の過程で椅子に座るような機能というのはたぶん特別には作られていない。直立して二足歩行するという、そのために今の形に進化してきているんですよね。
なのでただ椅子に座って作業するという動作自体が予定にないっていうか。
一同:(笑)
扇谷:できるっていうことと、適しているということは全然べつのことだから。そこが問題だということでね。そういう意味でいうと身体の健康を損なわずに椅子に長時間ちゃんと座って作業する、ということはたぶんないだろうと。むしろリセットが大事だと思う。
小笠原:なるほど~!
扇谷:座ることに対してのちゃんとしたリセットを効かせるということがすごく大事で。工夫すると訓練次第でただ座っているということはできるようになると思うんだけど・・・。座り方が問題になるのって、たいてい今、オフィスワーカーの人ですよね?オフィスワーカーの人はたいていパソコンやるでしょ?こうやって(両手を前に出してキーボードを叩くポーズ)。この形を合理的にやる方法って今のところないと思う。
一同:(笑)。ないのか~!
扇谷:腕を体側におろしたまま座るということと、キーボードを叩く形で前に出した状態で座るということは、まったく別のことだから・・・。そこはいかにリセットするかっていうことになる。腕をおろした状態で座っている時は、自分の背骨のナチュラルさに焦点を合わせれば済む・・・だから足がちゃんとついていて土台がしっかりしていて、その上に背骨がのっていればある程度座っていられるんだけれど、これがノートをとるとかで腕が前に出てきたときに重心の位置が変わっちゃうわけですよ。片腕でだいたい3キロくらいある。だから6キロくらいのものを支え続けていなきゃいけないという状態になっていて。これで肩こりするなとか、背中疲れるなとかは、よっぽど筋力が強くないと無理だなと思うんです。だからリセットすることが大事だというふうに思っているわけなんです。
もう一つは、人間がナチュラルに座るにはどうしたらいいのかというと、たぶん椅子じゃないと思う。
小笠原:そもそも椅子じゃない、と。(笑)
扇谷:床に座るということと椅子に座るということは、全然べつの作業で。和葉さんもさっき言っていたように結局、椅子の上にあぐらをかいたり、足を乗せたりの方がやりやすいのは、こっちの方が生理的にしっくりくるから。ゴリラとかチンパンジーでもぺたんと足を投げ出して地べたに座ることはできるわけだから。
それは人間も無理なくできる姿勢だし、赤ちゃんもやっている姿勢だから。股関節が柔らかければ・・・というか緊張して硬くなっていなければストレスなく本来はできるはずなんで。
言葉としても「座る」と「腰かける」は全然またべつで。よく「椅子に座る」っていうけど椅子に座ったら具合悪くなる(笑)。椅子って腰かけるものだから。
一同:そもそも椅子に座ると具合悪くなる・・・!一時的じゃないとダメっていうことかな。
扇谷:大雑把に分けると、背もたれがついていないのが腰かけで、背もたれがついているのが椅子。背もたれにもたれることが前提になっているものと、もたれることが前提になっていないものとの違いがまたある。
椎名:背もたれもけっこう重要ですよね。支えてもらえるものなんだ、という思い込みがあると・・・。人間工学でデザインされた椅子とかいっぱい調整があるじゃないですか。どこをどうフィットさせて支えてもらうか、みたいなふうになってくるけれど、そういうふうに背中を全部支えてもらうとなると、仕事するっていうより安楽姿勢の方だよなって。だからリラックスしようとして仕事しているっていう感じになっちゃう。
小笠原:オフィスの椅子ってすごい役割が多くて、シャキッと仕事しなきゃいけない時間もあれば、ごはん食べる人もいれば、ミーティングするときもあればぼーっと休んで力抜いてリラックスするときもあるし。選び方が難しいんですよね。どの用途に合わせて選んだらいいか、ということが。
いいオフィスチェアで、高いやつってだいたいメッシュの大きい背もたれがついていて大きい肘掛けがあって、なんか豪華そう、高いみたいな感じで。でもなにに最適化しているのか。リラックスはできそうですよね。
椎名:寄っ掛かる分にはすごく気持ちよさそうですよね。私も会社員の頃はああいう椅子を使ってたけど、やっぱり背もたれは使わずに作業をして、疲れたーと思ったらもたれて・・・みたいにしていたことが多かった気がします。だから椅子に姿勢を決められるんじゃなくて、一個しか使えない椅子があるんだったらその椅子を使ってどう自分がやりたいことに対して、どう体を使い分けられるか、もある程度必要になってくるのかな。
今は人類が「座ることに挑戦している」時代
小笠原:そうですねー。・・座ってみますか?(周りの椅子を見て)いろんな奴に座りながら体験してみましょうか。一番ふつうの椅子はこれだけど・・・。せっかくだから変わった椅子から座ってみます?丸椅子と、シリオと、天使の椅子、オフィスチェア、バランスボール、あと病院の待合室にあるようなふつうの木の椅子と、バックジョイですね。シリオからみんなで座ってみるというのはどうでしょう?孝太郎さんちょっと座ってみてください。これね、サンプルを借りてオーダーしたので良かったのですが、高さを合わせてみて・・・。
(孝太郎さん、シリオに座る)
一同:考えてますね・・・(小声)
扇谷:気持ちいい。坐骨から恥骨にかけてのところがサポートされる・・・。
あと腿の付け根のところが圧迫されないようになってるから、足が楽な感じ。
小笠原:尻の形にくぼんでいる椅子っていくつかあるんだけれど、これは坐骨のところも彫ってあるんです。それが、木の椅子の硬さをイメージして座ると、すごくふわっと感じる。
扇谷:なんか骨盤底が適切に刺激される・・・。呼吸が変にならない。
小笠原:ふつうフラットな硬い椅子に座ると坐骨を押される感じ・・・ずっと座っているとその骨が痛くなってくる感じがあるけど、これ(シリオ)はそれがなくって。ただねこれサンプル借りてすごく良くって、自分の身長とか股下とかを計って合わせて作ってもらったら、1センチ高かったんですよ。そうしたら全然違って。削りに来てもらったんです、職人さんに。1センチってこんなに違うんだなって。
扇谷:僕はこの高さけっこう気持ちいいです。
小笠原:じゃあ次は由紀さん!
河野:これね、私には1センチ高いのかもしれない・・・。ここで両足がかかとまで全部つくと安定感がすごい違います。なんだろう、やっぱり孝太郎さんが言ったみたいに骨盤底が広いっていうのはいいかもしれない。
鮫島:あの、「骨盤底が広い」ってどういう・・・?
河野:恥骨と座骨と尾てい骨にスペースがあったら安定できるっていう感じなのね。
(※注:坐骨は座った時に両方のお尻に感じる、ぐりぐりした骨。坐骨と恥骨・尾てい骨でできる四角形のエリア、つまりお腹の底の部分がゆったりとした状態だと安定できる、という意味)
これがふつうの平らな椅子だと微妙に焦点を座る時に、自分で「ここ」ってキュってまとめて坐骨に座る感じなの。さっきのお話で腰痛の人がいるということだったんだけれど、孝太郎さんが「そもそも人間の体は長時間座るようにできていない」っておっしゃってて、それに私もすごい同感です。
やっぱり立ったり歩いたり、生きるためになにか動作をするためにプログラムされているので、じっと座っているということに全然適していないんです。
なんと、初回に早くも、「座ること自体がそもそもダメ」という結論になってしまいました。
しかしだからといって、座ること自体を避けるのは普通に生活していたら無理、というもの。
じゃあどうしたらいいの?という話に次回繋がります。
扇谷孝太郎(おおぎやこうたろう)
1995年、演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と表現についての探求を始める。2001年、ロルファー(ロルフィング®の施術者)の資格を取得し公務員から転身。現在は恵比寿にてロルフィングを中心に、ボディワークとトラウマセラピーの個人セッションを行う。ワークショップも多数開催し、独自の視点でまとめられた「動くための解剖学」がダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを求める人々から高い支持を得ている。また朗読を中心に、カラダから生まれる声と表現についての探求を続けている。
・Dr. Ida Rolf Institute™認定アドバンストロルファー
・Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルフムーブメントプラクティショナー
・クラニオセイクラルプラクティショナー
・ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー
http://www.rolfing-jp.com/
河野 由紀
オステオパス ピラティストレーナー
2003年よりピラティスを指導
ピラティスムーブメントスペースにて資格取得
器具を使う個人セッションとグループクラスを実施
効果的なセッションのために広く深く身体を
理解する必要を感じて
ボディワークや解剖学の勉強続ける
2014年からオステオパシーを勉強
臨床.教育共に経験豊かな海外のオステオパスから
5年間に渡り国際基準に沿ったプログラムで研修中
2017年臨床試験を経て臨床許可を与えられる
クライアントは子供から年配の方まで幅広い
https://yuki-kono.jimdofree.com/
椎名 亜希子
「重力と調和したからだ」をつくるアメリカ生まれのボディーワーク、ロルフィング®の施術者。IT業界で翻訳やマーケティングに携わっていた会社員時代、趣味のクラシックバレエを通じてボディーワークに出会う。さまざまな悩みに希望を与えてくれたロルフィングに可能性を感じロルファーに転身。個人セッションのほかワークショップを開催し、感じる力を取り戻し、自分らしく生きるためのからだ作りを探求中。趣味はバレエと登山とボルダリング。
Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルファー
クラニオセイクラルプラクティショナー
訳書に『感じる力でからだが変わる:新しい姿勢のルール』(春秋社)
http://rolfing-spiro.com/