静と動が両方ある、ヨガのデザイン
Chama:僕らは体の専門家とか心理の専門家ではないと思っているんです、ヨガの指導者というのは。
医療治療系の方とか、トレーナーの方々とか、臨床心理士とか精神科の先生方、いろいろいらっしゃるなかで、ソマティック・エクスペリエンス®のサイトを見に行ったときにめっちゃ文系と思ったんですよ(笑)。暗いなと思って。でもトレーナーの方々が多いようなところに学びに行かせていただくと、めっちゃ体育会系という感じになって、そのふたつって対照的だなと思いつつ、ヨガって両方に行けるのがいいところかな。
小笠原:そうですね。このクラスのなかに静と動があるというのは、ヨガのよいところだなと思います。
アシュタンガって本当に飛んだり跳ねたりで、動いたぶん、最後に静かになっていく仕組みになっている。ただ動いて疲れちゃったからリラックスするではなくて、うまくこのふたつの波が来るようにデザインされてるんだろうなと思うんですね。伝統的なヨガには、きっとそういう叡知が詰め込まれているんだなと思います。
Chama:タイミングあると思うんですよね。上がるか下がるか。
バスケットのドリブルに例えると、上手くドリブルするには玉が上がってるか下がってるかをまず認識する必要がある。止まっていた方がベターなタイミングもあるだろうし、個性もあるだろうし。
小笠原:落ち着いた静かな状態と、活性化してらんらんしている状態の自分の両方の感覚、そのコントラストを知って自分の現在地が分かるようになるってとても大事ですよね。
ヨガはそれをクラスの中に両方経験できるデザインがある。
以前佳織さんに、自分自身のパフォーマンスを上げるにはどうしたらいいかご相談に行ったことがあるんですよね。
整えるとか、リラックスさせるとかは、散々やってきたので、さらなる次の一歩として、今までやってこなかったビルドアップ型を試してみたいけれど、どこから取り掛かったらいいのかと、そこをご相談に行ったんです。そしたらそれは心肺機能だと言われたんです。目からうろこでした。
パフォーマンスをあげるなら「心肺機能」
谷: 例えば自分自身の体重を動かすということ以上の力を発揮したいんだとしたら、その時には今自分の体重を動かすのがマックスの筋力しかないとしたらキャパシティがギリギリで怖いんです。
銀行に10万円しか入ってないときに95000円の何かを買うというのを決心できない じゃないですか(笑)。もし100万円あったら、いいかなって考えられると思うん です。そんな感じでキャパシティが豊富なら、そこでやりたいこと、できることが 増える。
トレーニングをするとか強化をするというのも、筋肉を大きくするためではなくて、自分がやりたいことをできるためにやりたいことを心配せずにできるようになるため。そのためにヨガを選ぶかもしれないし、ぜんぜん別のものを選ぶかもしれない。
これがベストだよという方法があるとは思わないんですけど、たぶんその人が楽しくできて、苦でなくてできて、プロセスを楽しみながらできるもので、自分が望んでいるものをよりよくより楽にできるものが見つかれば、それが一番いいと思うんですね。その過程のなかで、基本的な心臓とか血管とか肺とかそういった強さが育ってサポートしてくれる。
レジリアンシーとかレジリエンスとか、ちょっとずつ日本語でも聞かれてると思うんですけど、日本語で訳を見るとふたつ出ていて、一つは「回復力」。もう一つは「弾力性」です。
レジリエンスというのを英語の意味でみんなどんな風に使っているのかというのを、さっき話に出たトム・マイヤーズに聞いたら、レジリエンスがあるというのは、いろんなストレスがあったりとか、辛いことがあったりとか、運動のストレス、そういうものを受けたときに、そのまま壊れてしまわずに、元あった状態よりもっと強くなって戻ってこれる力だと、そう言われたんですね。
ストレスというのはマイナスのものではなくて、筋肥大みたいなことを考えたら、今筋肉が使える出力よりももっと出力が必要な力がかかったときに、それを受け止めることで筋繊維には微細な傷がついて、その微細な傷を体が修復することによって、前よりも筋繊維が太く、強くなるわけですね。ストレスがかかることによって今までよりももっと強くなるという適合が起きる。
これは筋繊維に限らず、いろんなストレスがかかってきたときにそれで潰れてしまったら、その人にとっては今そのストレスが大きすぎて適切ではないんだけど、でもそのストレスがかかったことによってもっと強くなって戻っていける。そういったレジリエンスがあれば、防弾チョッキを着てるみたいにどっちの方向に向かっても強くなれると思うんです。
だから動こうよ、というのを私は言っているんです。
気持ちも含めてレジリエンスがあれば、壊れないで強くなっていく。強くなるのも、ちゃんと周りに対しての思いやりとか優しさも、それから繊細さも持ち合わせたうえで、それができる強さを持つことが重要なことではないかなと。
そこでの手段は別にウエイトトレーニングしなくてもいいと思うし、なんでもいいと思うんですよ。自分が持っているレジリエンスを高めることができるものが見つかったらそれがいいんじゃないかなと。
トレーニングは「全部に対して」効果がある
小笠原: その辺りの事をちょっとお聞きしたいと思うんですけど、鍛えることで何でパフォーマンスが上がっていくかというと、その運動を通して心肺機能が強化されていく、心臓血管系の強さが上がっていくので、それで自律神経の調整が効くようになっていくということなんですね。筋肉が太くなって行っていると同時に。
谷: そうです。みんな、筋肉、心臓血管系とかバラバラに考えちゃいがちなんですけど、いろんな動きのパターンに負荷をかけて、それをスピードを上げたりとかゆっくりにしたりとか、その司令を支配しているのは神経系じゃないですか。
そうすると神経系の働きというのも当然向上していくので、我々の脳のトレーニングにもなってるんですね。脳・中枢神経系のトレーニングをしても、それとともに筋肉も当然発達していくし、よほど特殊な方法を使ってない限りは、筋肉にストレスがかかれば、それと同時に筋膜とか腱とかいったものにもかかるので、それに対しての適合力も生まれてくる。
結合組織も強くなっていくし、それとともに心臓がちゃんと拍出を続けるということがある程度の強度でできていれば心臓血管系も強くなっていくというふうに全部に効果があるんですね。ヨガの場合も同じようにそれは起きてくる。
小笠原: なるほど、すごく良く分かりました。体を鍛えることによって、精神のところまでフィードバックがあるという感覚ってヨガを通しても実感としてありますよね。
Chama: 例えばアシュタンガヨガだと、ずっと動いていて最後に仰向けになって休むというところで、副交感神経的な静けさみたいなのを感じやすいです。ほかの運動と何が違うかというと、部分部分では決して動かさないということ。
トータルでの統合感を保ちながら、できればそこの感覚を感じながら、かつアウトプットを制御しながらという形で、インとアウトの両方のバランスを取りながら動いて、それが統合効果を持っているというのがヨガの動き方の特徴的な点なのかなと。
小笠原: いやほんとにそうだと思います。感覚統合は大事な能力ですよね。呼吸や体性感覚を感じる、というのはヨガを他の運動から区別している大きな特徴だと思います。
Chama: 体を鍛えるというよりも、神経系に対して働きかけるようにもともとデザ インされている節がヨガの場合は強いかなと感じます。インドのヒンドゥーの考え方で、人間の存在を五つの層から成り立っていると考えています。
一番外側の層が体、食べ物からできる物理的な身体の層。その内側にエネルギーの流れの層があって、意識的な思考とか感情とかのマインドの層があって、もう少し内側に行くと無意識層の潜在意識の層があるというふうに、層で分けた考え方をするんですけど。まず体をまんべんなく動かしていって、そこからだんだん流れをよくしていって、そのことで体の透明性が上がっていく。
人間五蔵説 https://ys-samadhi.com/ より
Chama: 内側の流れの透明性が上がっていくことで、まずは顕在意識のところが透明化していって、それが次第にもう少し奥の僕らが意識できないレベルというところも次第に透明化が行われていくとハッピー、みたいな考え方ですね。
まず入り口として「身体」があるというのがヨガのポーズ練習や呼吸法の練習で、ヨガは最初からそこは比較的、結果としてデザインされた状態になっている。それが解剖学的にとか神経系が云々というのは、そんなには考えてなかったと思うんですよね。たまたま、ただ昔の人の方が正解だったのかなと思うんです。
もっとシンプルな世の中だったときに、体の流れがどうなるかというところを昔の達人の人たちというのは繊細な感覚のなかで分かっていた。それが今は神経の話になるのだろうけれど。
自然界にないストレスに対応する仕組みはない
Chama: 今僕らは、少しややこしく複雑にしちゃっていて感じ取れてない部分が、以前の人 達は感じやすかったのかな、と思う。そこは100年とか1000年とか時間をかけてい ろんな人たちがやってきて、結果として残ったという意味では、伝統制というのは ヨガのメリットかなと思います。
小笠原: 私達って基本的に動物なんですよね。生き物的に健全かどうか、本来的かどうか、ということが健康に良いか悪いかのひとつの境目になると思うんですね。自然界の中にあるストレスって、それに対応する仕組みを持っていますね。
野生動物に追いかけられているとか、飢えとか怪我するとか。そこから回復するシステムは、生き物的に備えてデザインされている。
一方で自然界のなかにないストレスは対応する仕組みを持っていないと言われてい ます。 例えばスマホのように、懐中電灯くらいに使える明かりの明るさを眼の前で 見続けるような神経系の負荷は、想定されたデザインになっていないですよね。
イスに座ってるというのも実はそうなんですけど、考えすぎというのも自然界にはないストレスですよね。感じるということをフルに使っていないと危険を察知できないし逃げられないし。考えすぎというのも自然界の中にはないストレスです。
ヨガをやってよかったことのひとつが、「感じられるようになった」ということ。それまではアトピーを治すための体の関わり方しかしてなかったのが、感覚が蘇ってきたというのが、体を動かし始めてよかったことの一つです。
谷 佳織(たに かおり)
Somatic Systems 株式会社代表取締役
Kinetikos 株式会社代表取締役
Gray Institute/ FAFS
ACSM/CEP
公認ロルファー®
1985年、グループフィットネスインストラクターとして活動を開始以来、アメリカ、日本のヘルス・フィットネスのフィールドにおいて、アクティブに教育活動を続ける。
機能解剖学、軟部組織へのアプローチ、ストラクチュラルインテグレーション等のトピックに関する指導者として高い認知度を持ち、NSCAジャパンをはじめとした各種教育団体の継続教育プロバイダーとして、日本各地にて数多くのセミナー指導とともに、グレイインスティチュート、TRX、DVRT、CFSC各種教育団体の教育プログラムの指導を提供する。
夫であるトラビス・ジョンソンとともに運営するオンライン教育情報サイト:キネティコスのコンテンツ作成、及び翻訳担当。海外講師を招聘した教育イベントの開催、及び米国で開催する解剖クラスの運営補助など、健康/運動指導に関わる専門分野の継続教育の提供に携わる。
chama / 相澤護(ちゃま / あいざわ まもる)
株式会社TYG ファウンダー 代表取締役
ニュートラルライト合同会社 代表社員
Gate8 プロデューサー
ハタヨガティーチャー(E-RYT500)
レゲエクラブ経営、CM制作会社勤務等を経て、父親の介護をきっかけにヨガ講師となる。
ヨガスクールTOKYOYOGA(表参道・渋谷・伊豆高原)、フリーペーパーYOGAYOMU、ヨガ手帳、ヨガブランドSAMAVSM、たまごヨガ、ヨガキャラクターPADMANKEYなど多彩なツールを通じ、ヨガの普及や、健康かつ持続可能なライフスタイルを提案。 “アシュタンガ・ヨーガ 実践と探求” “リストラティブヨガ 完全なリラクゼーションそして再生” “YOGABODY アナトミー・キネシオロジー・アーサナ” などの書籍を監修・監訳。
現在は、東京を中心に国内外でハタヨガ指導をしつつ、パーキンソン病を患う母親と同居し、パーソナルスタジオでもある自宅にヨガティーチャーやボディワーカーを招いてのライブ対談番組・水曜チャマの部屋のホストをつとめる。
『人生にヨガを』TYG: http://www.tokyo-yoga.com/corp
『Delight your home』GATE8: http://gate8.jp
『ヨガで世界を明るくする』chama公式WEBサイト: http://www.chama-yoga.com