生きて死ぬ私たちの「元気」のこと~「動く」ということが私たちにくれるギフト~chapter.1「動く」という必須栄養素

ヨガ教師であるtokyo-yogaディレクターのChama(相澤護)先生と、フィットネスインストラクターでKoneticos主催の谷佳織さんをお迎えした2019年3月8日のイベントからはや半年。

参加者の方から終了後口々に「圧巻だった」「人生が変わった」「ほんとうに参加できてよかった」という熱い感想を頂いていたイベントの膨大なレポートをやっとみなさんにシェアできるところまで来ました。

プロフェッショナルとして「身体」に関わるそれぞれ3人の現在までに至るストーリー。
それをたどることで見えてくる、「健康というもの」を構成するファクター。
それぞれが体験した「死」。死の体験によって浮かび上がってくる「生」。

どのパートも濃密すぎて、またまた今回も編集に悩みましたが、なるべくそのままでお届けすることとしました。

イベントレポートして、だけでなく、教科書として出版できるような内容になっていきます。

何度でも、何度でも読み返して味わいたい、「体」という切り口から見える一生モノの知恵と実践哲学が詰まった特集となりました。

全6回の連載、どうぞお楽しみくださいませ!

自分の身体をどう使うか?

小笠原和葉:みなさんこんにちは。今日はおいでくださってありがとうございました。Magellan編集長の小笠原和葉です。

MagellanというWEBメディアは、健康3.0に健康観をアップデートするということで、人生100年時代、健康情報を消費するだけではなくて、健康とは何かを考えるところからスタートするということをみなさんと一緒に始めたいなと思って昨年オープンしたメディアです。

今日ここにいる3人の関係からまずお話したいと思います。私は宇宙を勉強していた時代があるんですね、大学院まで。小さいときからアトピーやアレルギーがひどくて、システムエンジニアをやっていたころにひどくなって、動けなくなったので会社を休職したり、辞めたりして。その時にヨガに出会いました。Chama先生とお会いしたのが2002年くらい、15年くらい前からのお付き合いです。最初の2~3年特に足繁くですね、先生のアシュタンガヨガ(※)のスタジオに通っていました。

その頃って、今みたいなヨガブームが入ってくるギリギリくらい? ファッショナブルにヨガをやる時代が始まりかけていたくらいの時ですね。

(※アシュタンガヨガ:インドの故シュリ・K・パタビ・ジョイス師により、考案された伝統的なヨガの流派の一つで独特の呼吸とダイナミックな動きを特徴とする。)

Chama 相澤護:ストイックな人たちが多かったですよね。過剰に。

小笠原:Chama先生も、その2年くらい前から公民館でヨガを教えられていたということだったんですが、私は渋谷のシステム会社に勤めていたので、先生がセンター街のレンタルスタジオで教えられていた頃に通うようになって。どんどん生徒さんが増えて行っていた時期ですよね。

Chama:倍々ゲームでした。

小笠原:ヨガのバリエーションが、今みたいに骨盤ヨガとかビューティーヨガとかマタニティヨガとか、ない時代。私が行き始めたときは、まだオウムの傷が癒えかけていたころでした。

Chama:ヨガやっているというと、飛ぶんでしょって言われましたね。

会場:(笑)

小笠原:理系研究職あがりのヨガというと、めちゃめちゃ人に心配される時代で(笑)。少しアシュタンガヨガの説明をして頂いてもいいですか?

Chama:アシュタンガヨガというのは、南インドのマイソールというところにメインスタジオがある積極的に動くタイプのヨガですね。

小笠原:汗で溺れ死ぬかなというくらい。

Chama:汗をかくんですよね。だんだん下がちゃぽちゃぽしてくるんですよね。

小笠原:下向きの犬のポーズをすると、自分の汗が鼻に入って窒息するかなというくらいで。

Chama:ヨガが日本に入ってくる牽引役にもなった部分はあると思います。インドごりごりというよりも、アメリカの西海岸、ロサンゼルス経由みたいな、セレブがやってます、マドンナ、スティングやってます、みたいな感じで、メディアでも取り上げやすかったんですよね。教える人が、僕はともかくとして(笑)、イケメンが多かった。

小笠原:パワーヨガの源流という感じがします。

Chama:パワーヨガはもともとアシュタンガヨガを教えていた先生が、スポーツジムなどでもより幅広い人にヨガをしてもらおうと少し組み換えた形ですね。

無自覚だった「緊張」と「ストレス」に気付くまで

小笠原:アシュタンガは厳密に順番が決まっているし、ひとつのポーズを止めてインストラクションするということがなくて、ひたすらカウントする感じですよね。伝統的なインドのヨガをそのままやっているので。

私は一番アトピーがひどかったエンジニア時代、自分が呼吸をつめているとか、ストレスがかかっているとか、体が緊張しているとかということにまったく気付いてなかったんですね。

私はケンハラクマ先生のアシュタンガヨガスタジオが近所だったので、近いという理由だけでそこに通い始めて、偶然、アシュタンガから入った。ヨガで良くなるとはまったく思ってなかったんですけど、やると翌々日にアトピーの調子がいいというのが続いていました。

ケン先生にもアトピーのことを相談したら、「ストレスに気がついてくださいね」と言われたのですが、入りたくて入った会社だし、やりたくてやってた仕事。人間関係もすごく恵まれていて、環境の中にストレスになるような要因がなかったんですよね。

嫌いな仕事をしているとか、いじめられてるとか、そういうわかりやすいファクターがあったら、ストレスですねって認められると思うんですけど、自分の感覚にフォーカスするということができなかったので、ストレス感じてないけどなあ~って。要するにストレスを主観的に評価できなかったということです。

神経系の話で言うと、張り詰めている感じだったんでしょうね。

交感神経で高止まって凍りついていた神経系が、考える間もないほど動き続けるアシュタンガヨガで揺さぶられて、動き出した。

Chama:アシュタンガは体を動かしながら、それも呼吸のリズムに体の動きをのせて、かつ厳密に姿勢が決まっています。おへそを見たりとか、手を見たりとか、鼻の頭見たりとか、やることがけっこう多いので、考えてる暇がないんですよね。

小笠原:Chama先生はスタジオの鏡も見えないようにして隠してましたよね。考える暇もないし、笑ってる場合もないし、ひたすら体を動かしている。

60分とか90分のクラスが終わって、シャバアーサナといって横になって、しかばねのポーズで休むんですけど、それだけ動いて最後に横になると本当にリラックスするんですよ。

アシュタンガヨガのデザインがすごくよく出来ているところだと思うんですが。

会社とか日常生活の中で感じたことのないリラックスをヨガのシャバアーサナの中で感じるようになった。

ヨガで、動いてリラックスして、動いてリラックスして、というのを繰り返しているうちに、これがリラックスだとしたら、会社にいるときに緊張しているのかなって気づくようになっていったんですね。

緊張している状態しか知らないと比較対象がないから、リラックス出来てないという自覚すらなくて。リラックスという感覚を半ば強制的に感じるようになったことで、自分の客観的な状態がやっと感じられるようになったんだと思います。

あの頃の私、覚えてますか?

Chama:積極的な人だなって和葉さんのことは見てたんですけど、クラス終わった後も日本人の方はそんなに質問とかしないし。僕たちがやってるのって、ポーズの取り方を積極的に教えるというよりは、見守りますよ、終わったら答えますよ。そういう感じの距離感でいたんですけど、和葉さんは終わった後、必ず質問がガツガツくる感じでした(笑)。

本質的な改善につながっていくと感じられた唯一のもの

小笠原:私は何を質問してたんでしょう…。

Chama:たぶんボディーワーク的なことに、だんだん興味が出てきたから、ボディーワーク系のことを話ししたような記憶があります。なんでなんでっていう感じの。なぜかを解明したいような。今と変わらないですね。

小笠原:不思議なことがすごくいっぱいあったんですよね、私にとっては。

さすがに息してないのはまずいくらいの感じでヨガをしていて、アトピーとかアレルギーが治るとは思っていなかったし、なんでヨガで治っていくんだろうというのが謎すぎて(笑)。

いろんな治療を受けたし試したんですが、ヨガが唯一、本質的な改善につながっていくという感じが得られたものでした。

心と身体の繋がりっておもしろいなと思って、ヨガを始めて1年くらいでボディーワーカーに転職しました。

最近は、ソマティック・エクスペリエンス®(※)というトラウマ療法も治療者として行ってやっています。

これは神経理論を使ってトラウマに身体的にアプローチする療法なんですが、これを学んだことよって、その頃の自分の神経システムに何が起こっていたかが分かるようになりましたね。

ちなみにこっちも通称”「SE」、なんですが(笑)。
Chama先生も今、SEを学んでいらっしゃいますよね。

(※ソマティック・エクスペリエンス®(SE):アメリカのピーター・リヴァイン氏によって開発された身体志向のトラウマ療法。
SE Japan公式サイト http://sejapan.org/

静の要素と動の要素

Chama:僕が最初にアシュタンガヨガを教えるようになったきっかけというのは、父親を介護していて、すごくローな状態が続いていたのと、行動半径がすごく狭くなっていて病院で一緒に生活するような感じになったんですよ。そうすると、外に出られない、要は動けないから。30代前半で、どこかに行きたいとか、新しいことやりたいという気持ちがあるのに、動けない状態。

かつ、父親が調子悪いと、こっちも同じような状態になるんじゃないかなという不安が強くて。ずっとローな状態から抜け出せなかったんですよね。

どうしたもんかなって。おやじの前にこっちがやられちゃうなって思っていたところで、たまたまアシュタンガヨガという、積極的に体を動かす、かつ、呼吸も深くしながら、やっている時は一瞬、介護というところから目を離せる。日常の距離をおけるものに出会って。

これはすごくいいなと思ってそれ以来仕事としても続けています。

後から気づいたんですけど、そこで積極的に動くということで、神経系のバランスが取れたということだった。それで救ってもらえたのかなと。動くというのはすごく大事だなと思います。

小笠原:動くにもいろんな種類が、そして体を整えるということにも色んな種類がありますよね

私はクラニオセイクラルという手技療法をやっていたり、どちらかというと、「高ぶっているものを穏やかにしていく」「ピリピリしていて、繊細になっているところをなだめていく、静かにしていく」というタイプのアプローチをすることが多いんですね。自分のやっている講座とかもそうですし。

静かに整えて落ち着けていくという静の要素のアプローチもあるけれど、それだけだとやっぱりヘルシーではなくて、動く、という動の要素も生き物としての健全性を保つのに大事だなあと感じています

佳織さんとの出会いは、比較的最近で、2017年の1月にアリゾナで解剖学実習のクラスからのご縁です。

私どもセラピストは医療従事者ではないので、国内で解剖の実習ができないんですが、実際に組織とか内臓とか人体とか、いろんなところが実際にどんな質感を持っているのか知りたいと思っていたんですね。

そのクラスをコーディネートしてくださっていたのが、佳織さんでそこで初めてお目にかかりました。

アリゾナ解剖学実習クラスでの出会い

佳織さんもボディーワーカーで、ロルフィング(※)というボディーワークを提供していらっしゃいます。私の知り合いのロルファーさんは比較的静かで繊細な感じの方が多いので、こんなに元気なロルファーさんがいるんだと(笑)。しかも国内外でビジネスもバリバリ回していらして。衝撃でした。

(※ロルフィング/Rolfing®:重力との調和を取り戻し、人間の身体が本来持っている潜在能力や自然な治癒力を引き出すために、アメリカの女性生科学者アイダ・P・ロルフ博士が開発したボディーワーク。)

谷:私自身は、自分が人体解剖のクラスを受けたのは16~17年前です。ホルマリンで保存してある御献体で、ロルフィングのトレーニングを終わってすぐあとの時に、トッド・ガルシアというめちゃくちゃキレのいい解剖学者の昔のラボで解剖のクラスを受けました。

ホルマリンで固定してある御献体というのはホルマリン独特の強い匂いがするんですね。髪の毛でも、洗っても洗っても洗っても匂いが残る、そういう薬品臭がすごく強くて、それが何より一番覚えていることだったりして、本当のところ、解剖に苦手意識があったんです。

ただ実際に立体的に、身体構造を見ることができたのは、自分にとってすごくプラスであったし、すごくためになった。

一番最初にビニールで包んであるのを開けると、その方の体がそこに出てくるわけで。その体を自分たちが学ぶためにメスを入れさせていただくことができるというのは、すごく衝撃的なことでもあるし、16~17年前の解剖の後に御献体の方に似たおじいちゃんを街中で見ると、ホルマリンの匂いがふっとするくらい、その匂いと経験というのが、自分の記憶の中にかなり深く入ってました。

それからずっと時間が経って、ホルマリンで固定していない、冷凍した状態の御献体でやることができる解剖のクラスを、私たちがお手伝いする前からトムは開催していました。

冷凍のご検体は、そこで発見できる、組織とか、体の動きであるとか、そういったものが、薬品で変成してしまって固定してしまっているものとはまったく違うものだというのを、ずっと聞いてはいました。

小笠原:私も解剖のクラスでは貴重な機会をいただけて本当にありがたかったなと思いますので、ここからはそのお話をじっくりお聞きしていきたいと思います。

谷 佳織(たに かおり)
Somatic Systems 株式会社代表取締役
Kinetikos 株式会社代表取締役
Gray Institute/ FAFS
ACSM/CEP
公認ロルファー®

1985年、グループフィットネスインストラクターとして活動を開始以来、アメリカ、日本のヘルス・フィットネスのフィールドにおいて、アクティブに教育活動を続ける。

機能解剖学、軟部組織へのアプローチ、ストラクチュラルインテグレーション等のトピックに関する指導者として高い認知度を持ち、NSCAジャパンをはじめとした各種教育団体の継続教育プロバイダーとして、日本各地にて数多くのセミナー指導とともに、グレイインスティチュート、TRX、DVRT、CFSC各種教育団体の教育プログラムの指導を提供する。

夫であるトラビス・ジョンソンとともに運営するオンライン教育情報サイト:キネティコスのコンテンツ作成、及び翻訳担当。海外講師を招聘した教育イベントの開催、及び米国で開催する解剖クラスの運営補助など、健康/運動指導に関わる専門分野の継続教育の提供に携わる。

chama / 相澤護(ちゃま / あいざわ まもる)
株式会社TYG ファウンダー 代表取締役
ニュートラルライト合同会社 代表社員
Gate8 プロデューサー
ハタヨガティーチャー(E-RYT500)

レゲエクラブ経営、CM制作会社勤務等を経て、父親の介護をきっかけにヨガ講師となる。

ヨガスクールTOKYOYOGA(表参道・渋谷・伊豆高原)、フリーペーパーYOGAYOMU、ヨガ手帳、ヨガブランドSAMAVSM、たまごヨガ、ヨガキャラクターPADMANKEYなど多彩なツールを通じ、ヨガの普及や、健康かつ持続可能なライフスタイルを提案。 “アシュタンガ・ヨーガ 実践と探求” “リストラティブヨガ 完全なリラクゼーションそして再生” “YOGABODY アナトミー・キネシオロジー・アーサナ” などの書籍を監修・監訳。
現在は、東京を中心に国内外でハタヨガ指導をしつつ、パーキンソン病を患う母親と同居し、パーソナルスタジオでもある自宅にヨガティーチャーやボディワーカーを招いてのライブ対談番組・水曜チャマの部屋のホストをつとめる。

『人生にヨガを』TYG: http://www.tokyo-yoga.com/corp
『Delight your home』GATE8: http://gate8.jp
『ヨガで世界を明るくする』chama公式WEBサイト: http://www.chama-yoga.com