ボディーワーカー深掘り座談会~わたしたちにとってイスとは?!~Chapter.3『足を組むって、よきこと・・・なんですかね?』

腰痛がある人にとっての良い椅子って?

小笠原:でも、そもそも腰痛持ちの人にバランスボールってどうなんでしょう?

扇谷:腰痛の度合いっていうか、原因にもよるから、合うか合わないかは人それぞれだと思うんですよね。治療的なアプローチの中でバランスボールを使うということに関して言うと。

今、ちょっと話戻っちゃうんだけど、思い出したのは、やっぱりオフィスなんかだとさすがにそこまで低い椅子に座っている人っていないんだけれど、みんなソファーに座るっていうのが楽なんだって、どっかで思っていて。でもソファーに座るから腰痛になるんだっていうことをね、認識して欲しい。

小笠原:ソファーに座るのって、うちでテレビ見たりしている時に、ソファーにもたれてるということ自体がいけないということ?

扇谷:うん。それ自体が、ぜんぜん体が本来は楽ではないんだけれども、姿勢を崩してしまった状態が楽なんだって思ってしまっていて。そりゃ、一時的なことで。その姿勢で2時間テレビ見たり映画見たりするっていうのはけっこうリスキーなんだというのを、認識として知られていないと思うので。それでね、具合悪くなっている人もけっこういる。

小笠原:ソファーって座った瞬間がいちばんいいですよねー。

扇谷:前に家具職人の方がいらしたときにその話をして・・・座面の方が膝より高い方がちゃんと座れるという話をしたら、すごい驚かれて。「ソファー座った時、楽じゃないですか?」って言われて、いやいやソファーは違う、と。

椎名:寄りかかった瞬間にぜんぶが支えられて「ああー楽—」ってなるのがソファーの良さですよね。

小笠原:いつも姿勢を支えている筋肉をぜんぶオフにすることができるのでリラックス感はある。

扇谷:一時的にはね。

椎名:一時的な休息としてはね。そういう瞬間もないと疲れちゃうから。

河野:だからソファーって、一時的には寄りかかって「楽だな」って思っていても、そのうち横になって寝たりしません?

小笠原:そうですね、テレビ見ているうちにだんだん横になっていったりとかね。前でクッション抱えてみたりとか。ずっと寄りかかっている姿勢ではいられないかもしれない。

河野:ランバーピローというものもありますよね。ちっちゃい枕みたいな、腰椎を支えるもので、ソファーと自分の間のに入れて使うの。ソファー用のランバーピローというものがあって。

小笠原:運転の時の小さいクッションとかありますもんね。まあソファーで長時間くつろぐ人は注意ってことですよね?

一同:注意・・・うーん。

どんな姿勢でもくつろげる自分でいるのが大事

椎名:というか、いろんな姿勢でくつろぐのがいいと思うんですよね。だってずっとしゃんとしているなんて大変だから、グタグタしたい気持ちの時もあるし、そういう時はそういうふうにしていいんだけれど、いつも一定じゃなくて反対向きにしてみるとか、足の位置を変えてみるとか、どんな姿勢でもくつろげる自分でいるっていうのが大事

扇谷:そうなったらもう、床にいるのと変わらない(笑)。

河野:今、天使の椅子に座ってみました・・・。すごい、なんかこうふわっと支えられている感がありますよね。

鮫島:さっきのシリオと似ている感じなんですか?

河野:シリオとはちょっと違うかなあ。後ろ側のお尻のところを包んで支えてもらっている感じがある。

椎名:椅子の座る深さを変えるとまた、座骨の立ち具合が変わってくるんですよ。面白いです、その椅子は。

河野:あとこうやって左右に動くのも楽なので・・・。体の中って絶対に動いているわけじゃないですか。血液も動いているし筋肉も動いているし、細胞は生まれたり死んだりしているわけだから。だからどこもがんばって止めないで、楽な方向へ・・・微調整がしやすいかも。エネルギーはいつも動いていた方がいい。

椎名:うんうんうんうん!そうなんですよね。

鮫島:幅がありますよね、ふつうの椅子より。

椎名:そう、揺らぎが自然に起きやすい椅子だと思ったんですよ。

小笠原:バランスボールもシリオも天使の椅子も、作業とかに集中していても気づくと体がちょっと・・・微細に自分で動かしている。たぶん体はじっとしていたくないから、常に調整しようとしてるんでしょうね。あと呼吸による動きとかも座っていることによって妨げられちゃうんだけれど、その中での微調整が妨げられにくい。スペースがあるって感じがしますね。

椎名:やっぱり骨盤の角度がすごい重要ですよね。どっちもやっぱりこう、自然に前傾になるような状態と、シリオはどっちかというとふんわり座骨を支えて。私の感覚だと前側を腿の方においてしっかり支えているという状態で。天使の椅子に座った時の感覚だと、座骨がしっかり骨でコツッと支えられて、その力がうまく上まで伝わって、ちゃんと脳みそを支えている土台になっている大事な蝶形骨という骨が、カッと支えられている気がして。

なんかすごく仕事向きだなあという感じがするんですよね。

※蝶形骨(WikiPediaより)

扇谷:天使の椅子、座ってみました。(10秒ほど間)・・・僕はこっちの方がより、前側がサポートされている感じがします。確かに、背が伸びてくる感じ。・・・ちょっといいですか。(といってシリオに座る)
うん、たぶんこっち(天使の椅子)の方が僕は伸びる感じ。

鮫島:な、何が伸びるんですか!?

一同:笑

環境によって引き出されるということ

扇谷:あの、靴の足底板の作り方で、前に理学療法士の友達が教えてくれたんですけど、おおざっぱにいうと2種類あって。ひとつは足りないところを埋める形でサポートするっていう考え方。もうひとつは、必要な筋肉を刺激できるように凸凹を作るっていう考え方があって。

それは最初、履きにくいんだけれど、刺激されているうちに体が変わっていって、本来の足を回復してくれるっていう考え方があるのね。で、そうすると座骨の形というか、形に合わせてあるというよりも、どう刺激するかっていう視点がね、どっちの椅子にもあるなって。

お尻の形や座骨の形に合わせるということじゃなくて、身体が本来の機能を発揮できるように、どうやって座面を刺激するか。座面からの刺激を入力するかっていう目線があって。

で、こっちの方(天使の椅子)がより強く僕は感じますね。

河野:それでちょっと思い出した話をしていいですか? 和葉さんが私のところにエクササイズをしに来てくださっているんですけれども、最初のうちはやっぱり座っている時間が長いのか、(体を見ていて)仙骨きゅうくつそうだなあっていう感じがしてたんですね。
ところがある日いらした時に、なんだかすっきりしてるんですよ!仙骨から腰椎までが。なので、「和葉さん、いきなりすごく変わっているんですけど何かしましたか?」って言ったら「椅子が変わりました」と。

小笠原:これ(シリオ)のサンプルを取り寄せてたんです。座った時に楽だなという感じはもちろんあるんだけれど、電車で立ったりするような何気ない時に、座っていた時の状態を身体が再現しようとしてくるのがわかる。

鮫島:すっごーい!!

河野:それがさっき孝太郎さんがおっしゃっていた「刺激をしてくれている」「インプットしてくれている」ということで。それを自然に体が受け取って、反応してバランスがいい方に進んでいくっていう役目をしてくれているんです。

小笠原:環境によって動作が引き出される。
座ることによって引き出される調整力とか、別の場所に座った時には見つけ出せなかったいい位置みたいなものが、この椅子という環境の力を使って引き出されていくというか。ねえ。椅子もひとつの環境なので。

そういう機能もイスは持てるということは知っておいていいことなのかも知れないですね。

鮫島:うーん。椅子、すごい!

小笠原:椅子って座って完成するから、足の幅とか椅子への近さとか、もちろん高さも出し、そういうものでもぜんぜん違ってくる。

鮫島:そうですよね。男性だったら足の幅を大きめに広げて座ったりできますけど、女性は足閉じて座らなきゃだし。そのあたりも自然なのかなんなのかわからないですけど。あとは、足、組みますよね?それってどうなんですか?

シリオとか天使の椅子に座ってて思うのは、ちょっと足組みづらいのかな、と。

小笠原:でも私、途中で組みたくなっちゃうよ。

鮫島:足組むって、よきこと・・・なんですかね?

小笠原:私ね、さっきみなさんの話を聞いてて思ったんですけど、今までね、ボディーワーク受けた直後とかって決して足を組もうなどとは思わないんですよ(笑)。だから、そもそも持っている体のアンバランスを補いたいために、こっちに伸ばしたいとか、こっちに傾くとか、そのバランスの中で補っている姿勢なんだろうな、足を組むって。と思ってます。

整うと、足を組みたいとは思わないから。だから私は足を組みたいと思った時は、体の中で何かバランスが崩れていて、よくない状態なんだろうなーと思いながら組んでいたんだけど。でもやっぱり、じっとしていたくないから組むっていうことかな。

椎名:うん、動きとしてね。

小笠原:この、椅子に座っているという姿勢の中でなんとか動きやバリエーションをつけようとしたら、時々こうして足を組み替える・・・くらいしかできない(笑)。

椎名:いろんな意味合いでの「足を組む」がありそうですよね。動きが欲しくて組み替えて動いているっていう人もいるし。
あともうひとつは、やっぱり上半身の支えがうまく作れてないと、その不安定さの代償として、足を組むことで安定させて落ち着くっていう要素がある。

ずっと同じ方で組んじゃうんだよねっていう人は、その傾向があるかもしれないですね。

小笠原:うん。特にチビッ子だと足の納まりがそもそも悪いものだから、こういう状態(足の甲を椅子の足に引っ掛けて、つま先で床についている状態)でいるしかなかったりとかね。

鮫島:これでも一見良さげじゃないですか?わざわざこういうふうに、足をひっかけるところを設置してある椅子ってありますよね、腰痛軽減するための椅子。オフィスで座ってる人いました。

一同:ああ、脛のところにすね当てがあるやつ!(子供の頃使ってた、一時期使ってた、の声があがる)

小笠原:いろんな、創意工夫された変わった椅子とかかっこいい椅子ってあるんだけど、それらについて議論していた時に出た意見としては、足の裏が床につくってやはり大事なんじゃないかということ。子どもならなおさら。

うちも子どもには、ごはん食べる時にも足の裏がつくように、足の下に台を置いてます。ぶらぶらしちゃわないように。足の裏が支えられているって、けっこう大事。足元が安定するとカラダがしっかりするから、消化にも差が出るだろうし、勉強するなら脳の覚醒度も変わってくるはずです。

背が低い人が与えられた椅子の中で心地よくいるためには、このバランスでいるしかなかったりとか、逆に足を組んでなんとなくいられる高さとかもある。だからその姿勢で良い悪いで言ったら、決して足を組んでいることは良い姿勢ではないんだけれど、バリエーションの中での必然というか、ひとつのチョイスとして、長時間その姿勢でいるということではなくて、この形の方が楽だな、ということだったらそこにいるというのはアリなんじゃなかな。

ソファーはイスとしてどうなのか、足を組むのはいけないことなのか?、そして、そのイスは足がつくか?という視点、

かなり実用的な話になってきました。

よく聞かれる「どのイスがいいの?」と銘柄指定を求められるような質問は、とても

回答しにくい深い問いなのだということもますます分かってくるのでした。

残り2回。ゴールが見えてきました。

扇谷孝太郎(おおぎやこうたろう)

1995年、演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と表現についての探求を始める。2001年、ロルファー(ロルフィング®の施術者)の資格を取得し公務員から転身。現在は恵比寿にてロルフィングを中心に、ボディワークとトラウマセラピーの個人セッションを行う。ワークショップも多数開催し、独自の視点でまとめられた「動くための解剖学」がダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを求める人々から高い支持を得ている。また朗読を中心に、カラダから生まれる声と表現についての探求を続けている。

・Dr. Ida Rolf Institute™認定アドバンストロルファー
・Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルフムーブメントプラクティショナー
・クラニオセイクラルプラクティショナー
・ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー
http://www.rolfing-jp.com/

河野 由紀

オステオパス ピラティストレーナー
2003年よりピラティスを指導
ピラティスムーブメントスペースにて資格取得
器具を使う個人セッションとグループクラスを実施
効果的なセッションのために広く深く身体を
理解する必要を感じて
ボディワークや解剖学の勉強続ける
2014年からオステオパシーを勉強
臨床.教育共に経験豊かな海外のオステオパスから
5年間に渡り国際基準に沿ったプログラムで研修中
2017年臨床試験を経て臨床許可を与えられる
クライアントは子供から年配の方まで幅広い
https://yuki-kono.jimdofree.com/

椎名 亜希子

「重力と調和したからだ」をつくるアメリカ生まれのボディーワーク、ロルフィング®の施術者。IT業界で翻訳やマーケティングに携わっていた会社員時代、趣味のクラシックバレエを通じてボディーワークに出会う。さまざまな悩みに希望を与えてくれたロルフィングに可能性を感じロルファーに転身。個人セッションのほかワークショップを開催し、感じる力を取り戻し、自分らしく生きるためのからだ作りを探求中。趣味はバレエと登山とボルダリング。

Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルファー
クラニオセイクラルプラクティショナー
訳書に『感じる力でからだが変わる:新しい姿勢のルール』(春秋社)
http://rolfing-spiro.com/