マインドフル イン・ザ・ダーク 心に太陽を昇らせる~Chapter.1 『見るということ、世界の感じ方』

2019年1月の某日、わたくし、小笠原は、Magellanライターでありダイアログ・イン・ザ・ダークにもスタッフとして関わっていらっしゃる石井健介さん、そしてボディーワーカーの葦江祝里さん、同じくボディーワーカーでMagellan編集部の鮫島未央さんとで、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験させていただきました。

ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏の発案によって生まれた「暗闇のソーシャルエンターテイメント」。これまで世界41カ国以上で開催され、800万人を超える人々が体験してきました。日本では、1999年の初開催以降、東京・浅草橋会場での企業研修や大阪「対話のある家」を中心に開催、これまで21万人以上が体験しています。

「参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障害者のアテンドにより、中を探検し、様々なシーンを体験します。その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、コミュニケーションの大切さ、人のあたたかさなどを思い出します。」
(公式サイトより http://www.dialoginthedark.com/

われわれMagellan取材チームも浅草橋会場にて体験させていただきました。
今回の特集連載は、このダイアログ・イン・ザ・ダーク体験後の対談の様子をレポートします。
わたしたちはどのようにしてここに導かれ、何を「見た」のか。
どうぞお楽しみください。

朝起きたら、突然目が見えなくなっていた

小笠原和葉:今日はお集まりいただいてありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。今、ちょうど、この対談に来ていただいた石井さんと、葦江さんと、スタッフの鮫島さんと一緒に、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以後、DID)を体験してきたところです。で、これから対談をはじめるにあたって、そもそもどうしてこのテーマを掘り下げてみたかったのかというところからお話したいと思うんですけれど。

ボディーワーカーの仕事をしていて、元々は、足を調整すると呼吸が深くなるということに気づいたんです。それがどうやら目の疲れと関係しているということが分かって来まして、目と呼吸の関係に興味を持って調べていたときに、浜松の眼鏡屋さんが書いた本に出会いました(※1)。その本に、眼鏡が合っていないことによって鬱になっていたり、アレルギーになっていたりする、ということが書かれていて。つまり見るという行為が、免疫系の、自律神経への直接的なインプット(刺激)になるのだと。そして眼鏡をちゃんとしたものに変えたら、鬱が治った、アレルギーが治った、花粉症が治ったという話がいっぱいあるということを知ったんです。

わたしは、測ると1.2くらい視力はありましてそんなに悪くないんですけど、運転したりする時とPC作業の時はメガネを掛けています。浜松の眼鏡屋さんに行ったときに言われたのは、私は実は気合いで視力を出しちゃっている、実は目の悪い人だと。筋力、体力があるので、出せてしまっているけどということだったんですよね。一緒に行った友だちは、今までの眼鏡だと見えすぎて疲れているから、度を下げるということをしたら、すごくリラックスして人と関われるようになったんだそうなんです。だから、見えたり、見ようとしたりすることに対して、相当エネルギーを使っていて、見るということに使う力によって、世界の感じ方とかメンタルに影響を受けるんだなというところから、眼鏡とか視力とかを研究してたんですね。その中で、伊藤亜紗さんの『目の見えない人は世界をどう見ているのか』という本に出会ったりした事もあって、ますます目が見えないという世界にすごく興味を持ち始めました。

ちょうどその頃に、今日の対談相手でもある石井さんにお会いしました。小松ゆりこさんという共通の友だち経由で石井さんから連絡をいただいたんですよね。そもそも石井さんはセラピストでもあるので、わたしがやっているボディーワークの講座に来てくれようとしたところで、「和葉さんの講座に行こうとしていたんだけど突然、目が見えなくなっちゃって。大変だったんだけど、1年くらい経って慣れたので、行っていいですか?」 というオファーがあったんですね(笑)。1年で慣れるって、その適応力は何だろうと思って来ていただきまして、すごく楽しかったんです。

しばらくして、また東京駅でお茶をして、「いやあ実は、正直言って、ほとんど困ってないんだよね」って。見えなくなって大変だろうとわたしは思ってたのに。見えなくなって入院していたときの話も伺いました。いろいろあって、今に集中している状態になったら、僕自身は不安がないんだ、と。それで、なんで和葉さんを呼びだしたかというと、「これってもしかして今流行ってるマインドフルという状態ですか?」 って聞きたかったからだと(笑)。「そうですよ!」という話になりまして、今回じっくりお話を伺いたいなということで、石井さんにお声がけさせていただきました。

石井健介:僕は、Magellanにもライターとして記事を書いてるんですけど、2016年の4月に、朝起きたら目が見えなくなったんですね、突然。だから、もうすぐ3年生。今は少しだけ左目が見えるようになって、物がどこにあるなというのがわかるので、知っている場所なら杖なしでも動けたりします。ただ、見えなくなった直後って、まさにさっき体験していただいたDIDの世界。真っ暗になって、そこから少しずつ回復してきて、今の状況になっています。実は僕は2012年、まだ見えていた頃にDIDを体験しているんですね。Magellanにも書いたんですけど、そのときの経験があったから、見えなくなった次の日に一瞬だけ、大波にのまれた中で、凪が来た瞬間があったんですよ。見えなくなって、何が起きたかわからない混乱の中で。その時に、これってダイアログ・イン・ザ・ダークの世界だ、その世界に来ちゃったんだなと思って。でも、あの体験があったからそこで一歩引いた視点から見れた。本当に偶然ですが、DIDの体験に救われたというのがあるんです。それで、見えるようになったら退院するんだろうなと思っていたら、見えないまま退院ですって言われて、今に至りますね。

目が不自由になったけど、けっこう自由になった部分が多い

病院にいる間は、患者の自分に自己共感をしまくっていました。嘆ききった。なんやかんやありつつも、病室のベッドで見えないし、音で楽しめるだろうと思って、みんなCDとか落語とか持ってきてくれたんですけど、大部屋だったので、イヤホンで両耳が塞がれるって、見えない僕にとってはすごく圧迫感があって音楽はとてもじゃないけど聞けなかったんですよ。どこに発散していいのかわからない。スマホも使えなかったので。何しようと思ったときに、病室でずっと瞑想してたんです。瞑想といっても、これからへの恐れだったり、あらゆる失望感から抜け出そう、「いまここ」に集中しようと思って、テーブルの感触をずっと探っていたり、病室とか外から聴こえてくる音にじっと耳を澄ませたりとか。そうすると不思議と心のバランスがとれていって。あとから知ったんですけど、これはマインドフルネスだなって。見えなくなってから、サンディエゴからいらした先生による、マインドフルネスストレス低減法のトレーニングプログラムに基づいたNLCという5日間のコースに通ったことがあるんですね。その時に「あれ、これもう知ってる」と思ったんです。やってる、体感している、実感しているって思って。病室にいた時の真っ暗闇で、マインドフルネスの状況に自分は身を置いていたんだなと。そうやって過ごしていたら、過去を嘆いたり、未来を憂いたりすることなく、「今」を向いてにいられた。マインドフルネスをやるとこういう効果がありますとか、なんかもう腹落ちしているというか、納得しているというか。普通は見えなくなったら、障害と捉えるじゃないですか。でも、マインドフルネスという視点から見ると、僕にとっては追い風なんですよね。こうならなければわからなかった。頭ではわかっていたけれど、身体で理解できていなかった部分が、見えなくなったことで、そういうことだよね、と分かったので。もちろん日常生活では大変なこともあるけれど、そういう文脈のなかでは、あまり困ってないという。

目が不自由になったけど、けっこう自由になった部分が多い。視覚で人をジャッジしなくていいし。なんだ今日、ふたりともピンクを着てるなとか。言われなければ気づかないけど。

小笠原:一人は赤で、われわれはピンク繋がり。

鮫島未央(Magellanスタッフ):わたしと石井さんは黒ですよ。

小笠原:黒チームと赤チームに別れていたんですよ、さっきは(笑)。それまでは何をされてたんですか?

石井:元々、アパレルで、ファッションをずっとやっていました。そこからいったん離れて、いろんな仕事をしてきてるんですけど、基本的に物を売る営業。環境に配慮されているものとか、エシカルとかフェアトレードとか、そういうものを取り扱ってました。2012年に独立してフリーランスになって、さまざまな仕事をしながら、セラピストとしての活動をしていました。クラニオセイクラル(※2)と誘導瞑想。

小笠原:DIDの暗闇を、石井さんが案内してくださったことの話をあとでまとめてしようと思うんですけれども、「天職」だなと思いました。暗闇を案内するシーンでは、声が変わりましたよね。すごく芯が通った。お腹の中で声を出す場所が変わった。すごいと思いました。我々、ボディーワーカー繋がりということもあるので、ボディーワーカーってやっぱりふだんから、身体の感覚に意識を向けていて、その身体の感覚が一個の安全基地みたいになっているところがあるじゃないですか。その感じがうまく暗闇と連動されていて。このポジション最高!という感じが、聞いていてしました。すごい適職だと。

石井:暗闇に入ったときって、みなさんもそうですけど、ちょっと声の出し方とか、話し方って、変わりませんでした?意識的に?

葦江祝里:意識的に変えました。日常的な意思疎通としての声ではなく、声を少し張って、周りに発信できるように自然と切り替わりました。

鮫島:祝里(のり)さん、声のプロですものね。のりさんのバックグランドを話して頂いていいですか?

世界から太陽が消えたのなら、心に太陽をつくるしかない

葦江:はい。目繋がりでいうと、わたしは8年前に心不全で倒れ、2週間絶対安静でベッドに寝ていた時期がありました。個室で一人、目の中に入ってくるのは窓の外の青空だけ。突然光を失った石井さんと逆かもしれません。現実生活や仕事がすべて止まり、あちこち管を巻かれて、目の中に青だけの光を見て病室で過ごしていました。
今思うと、それはとても生命的な、青の色彩感覚や光そのものの体験だったんです。
石井さんは視神経に炎症が起きて見えなくなったとおっしゃってましたね。わたしはふだん、物を見ている人は、いったい何を見ているのか、対象物なのか、知覚なのか、見ているという感覚そのものなのかを観察する習慣があります。そのせいか、青空しか見えない体験は、とても鮮烈でした。
心不全のその一年後には、甲状腺を全摘する手術を受けたんです。甲状腺をとった次の日から、今度は逆に、真っ暗闇を経験しました。物理的にではなく精神的な暗闇が訪れる。
ホルモン変化の影響を受け、感覚的にはもう二度と太陽が上がらないんじゃないか、という恐怖と落ち込みを感じました。

石井:それは鬱っぽくなる?

葦江:鬱っぽくなります、完全に。実際に太陽は上がってるんでしょうけど、自分の臨場感としては、真っ暗闇としか言いようがない。現実と断絶してしまったというより、現実が内側にしかない感じです。わたしが落ち込んで鬱っぽくなったのではなく、本当に世界が終わってしまったのだという感じになって。
そのとき、世界から太陽が消えたのなら、心に太陽をつくるしかないと思いました。そしてそれをイメージし続けました。
石井さんが、光を失ったけれど、瞑想をして今そこにあるいろんな感覚を研ぎ澄ませたというお話を伺って、当時の自分にあった暗闇と太陽のイメージを思い出しました。
感覚は、ただ外的な世界をとらえるだけでなく、内側にも大きく広がっているんだなと思います。ただ見えている・見えてないというだけではないということ。
病気や感覚的な体験を経て、体に興味を持ってセラピーの世界に入り、同時に、声や感覚を使ったパフォーマンスの世界を学び始めました。
未経験で踊りを学び始めて、先生に真っ先に真っ先に言われたことがあるんです。「お前は身体と目が離れすぎているから、動くほうにとにかく目を送っていけ」と。これは初心者的なアドバイスですが、ずっと心に残っています。
ボディートークの施術者になり、クライアントさんを観察するとき、目と身体の関係についてのこのアドバイスをよく思い出します。悩みに囚われている人は、目で見えているものが身体から離れている。見えている世界と思考的マインドの分離は、踊りを始めた頃の自分の目の使い方と同じだなと。だから、どうやったら思考と感覚が身体と近づいていくかを、踊りでも施術でも、よく考えます。
今日、暗闇で体験したような、足の裏の感覚、みんなの呼吸の感覚、自分の手がどこにあるのか、何を飲んでいるのかという確かさを受け取ってり、内側の知覚と重ねていけたら、とても幸せなんじゃないかなと思いますね。暗闇の体験は、わたし自身にとっても、仕事の上でも、何か持ち帰れるものがたくさんありました。

(※1:「目から鱗のメガネ楽」内山公)
(※2:軽いタッチで脳脊髄液の流れを改善するボディーワーク)

石井健介


1979年生まれ セラピスト
アパレル業界を経て、エコロジカルでサステナブルな仕事へとシフト。2012年よりクラニアルセイクラルとマインドフルネス瞑想を取り入れたThe Calmというオリジナルセラピーを始める。同時進行してフリーランスの企画・営業・広報として働き始める。
2016年の4月のある朝、目を覚ますと突然視力が失われていた、という衝撃的な体験をしたが、日々をマインドフルにいき、生来の風のような性格も相まって周囲が驚くくらいあっけらかんと過ごしている。

葦江祝里(あしえ・のり)
ホリスティック・ウェブ代表
米国IBA認定ボディートーク上級施術士
Adv.CBP

「わたしは言葉を書く人間ではなく、コトバの表現形式としての人体であろう」と、人間探求の旅に漕ぎ出した。

学生時代より東洋と西洋の融合に興味を持ち続け、歴史、宗教、神話、中国語を学んだ。その後、出版とIT業の実績、自身の病気回復の経験を生かし、2014年、セラピストに転身。心と体、生活環境、対人関係、仕事や表現など、幅広い領域からのボディートーク療法を提供している。2016年はホリスティク・ウェブの名義で各種ワークショップを開催。
施術のかたわら、オイリュトミーシューレ天使館に在学中。
生体のあらゆるリズムと循環、その知恵を秘めた言霊学に魅せられ、今後の舞台表現、戯曲表現の核とすべく模索している。

鮫島未央

米国IBA認定ボディートーク施術士

「人にとって本当の幸福とはなにか?」という疑問が物心ついた時からあり、心理・哲学・人智学・精神世界・ボディーワークなどあらゆる分野を学んできました。それでも「うまくいく人とそうでない人」が生まれてしまう不全感をどこかに感じていましたが、ボディートークに出会い、その効果を自分自身で体感し「ここにすべてがある!やっと出会た!」と感じました。自然に心身を回復し、本来のその人そのものを輝かせてくれるボディートークを、一人でも多くの方に届けたいと思う日々です。プライベートでは二児の母。好きな食べ物は生ハムと牡蠣。

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