オフィスチェアの可能性を考える
鮫島:オフィスワーカーの人たちが、わりと半強制的に一日中座っている状態っていう前提だとするとやっぱり、椅子に座っている姿勢の中に揺らぎがあるかとか足裏がつくかとかは、ちょっと考えた方がいいということ?
小笠原:そうですね。これまで話してきたような、ここまでオタクな視点で椅子を選べる人っていないと思うので、まったくチョイスがなくてその椅子の中でやらなきゃいけないっていうケースの時に、その椅子とどう仲良くしていったらいいか。
座り方なのか、動き方なのか。あと、高さ、ですね。オフィスにある椅子ってキャスターがついてて高さが調節できるタイプが多いですよね。で、背もたれが付いていて・・・っていうのがオフィスチェアのスタンダードだと思うので、こういうちょっとした調整の可能性があるものだったら、どこに合わせてあげたらいいのか。そもそもいい高さってどういうものなのか、とか。
鮫島:高さはかなり自分の好きにできますもんね、オフィスチェアって。家の椅子だとむつかしいけど。あとこの、ガラガラ・・・キャスターが動くのもいいのかも。
小笠原:ガラガラで下半身を動かしたりする動き自体はいいのかもしれない。詰まりがちなそけい部のところがちょっと動かされたりして。こういうオフィスチェア以外にも、会議室の椅子とかありますけど、
貸し会議室の椅子ってなんかよくない事が多い・・・。スタッキングしやすい椅子ってお尻のほうが下がってるのが多いんですよね。あれ、スタッキングしやすいということ以外になにかいい事あるのだろうか(笑)。
お尻が下がって膝が上がる角度になっているし。背が低い人は座るとすごく不自然な姿勢になる。
河野:あれは疲れるよねぇ。
小笠原:あと、コロコロ(キャスター)が付いている椅子だと、床がフローリングで足を踏ん張っていないと動いちゃう、みたいな場所だとやっぱり腰が痛くなるんですよね。
この間、貸し会議室で講座をやった時に「腰が痛い」っていう生徒さんがいらして、動かない椅子に変えてもらったら、それだけでぜんぜん違ったんですよね。だから足が踏ん張っていないといけない状態っていうのは、なんか変な椅子だと思った方がいいんじゃないかな。床との組み合わせという面でも。どうですかね。
椎名:そうですね。地面にうまくつけているのと踏ん張っている、のは違いますもんね。
あの、内転筋がうまく動かないクライアントさんているじゃないですか。あれは立ち方からきているんだろうなとなんとなく思ってたんですけど、あ、座る時に椅子の足に自分の足を絡めていたりとか、踏ん張っている時に内転筋をぎゅっと緊張させているケースもあるんだなーって今はちょっと思ってます。
(武器屋.netより)
小笠原:うん、絡めて踏ん張ってるケースもありますね。パイプ椅子とかだとさっきみたいに足に、かかとをちょっと絡めて爪先立ちでっていうのもあるし、広い会議室用の椅子とかだとこう、絡めてっていう・・・。
椎名:そう、やっぱり女子で、床にちゃんと足がつかないって人は、そういうふうに座る人が多いから、そういう方がもしオフィスの椅子とかでもし足がちゃんとつかないんだったら台を用意して、必ず足の下においてつけるようにしましょうっていうのは言うんですよね。
チェアは上下できるかもしれないけど、デスクの高さはみんな一緒ですよね。だからすごく大きい人とかすごく小さい人とかは、やっぱり大変なんですよね。
小笠原:そう。椅子が合ってればいって問題でもなくて、机との兼ね合いもあるんですもんね。
椎名:やっぱり足の裏がちゃんと付くというのは、座骨がちゃんと立って座るということの前提条件として絶対に必要になってきていて。しばらく前にfacebookで友達が、子どものピアノの発表会の練習をしている動画を載せてたんですよ。
で、最初足の下に台がなくてぶらぶらの状態で弾いていたので、ちょっと骨盤が後ろに倒れて、少し不安定そうだったんですよね、上半身が。それでコメントに「足の下に台とか使わないの?」って書いたら「本番はあるんだけれど家ではやってなかった」って言ってて。
それからすぐに台を用意したみたいで、後日もう一回、台つきで練習している動画がアップされていて。それ見たらやっぱり、姿勢が見違えるほどいいんですよ。ぜんぜん腕も動きやすそうだし。本当にもう、足がついてるか付いてないかで、「えー」ってびっくりするくらい違う。
小笠原:だから、いわゆる「生産性」とか「パフォーマンス」に椅子はめちゃ影響しますよね。脳の覚醒度とかも違うし。
椎名:ぜんぜん違いますよね。やっぱり休んでいく姿勢になってしまっていて、それでパフォーマンスをよくしようとしても無理がある気がする。
座り方にもバリエーションやオプションがあることに気づく
小笠原:楽だと思ってやっているその姿勢が腰痛につながっていきますよね、寄りかかっていると。椅子に座っている人がどういうバリエーションで腰痛になっちゃっているかということから、避けた方がいい椅子の使い方がわかってくるかなと思うんです。
腰が痛くなる人って姿勢が悪い人・・ってよく言われますけれど、その瞬間その人にとっては楽な感じがしているけれど、それを長時間やると腰痛につながっていくパターンということですよね?
椎名:そうですねえ。(背中を丸めて、おしりが座面の前に方にずり落ちていて、お腹が出ている)その姿勢で長時間いたらね。でもむずかしいですよね。その形しか知らない人は、それが楽!って思っているわけだから。たとえばセッションに来て、ちょっと座骨を立てて体重が足に乗るように座ってみましょうかーっていうと、「・・・ああ〜こういう楽さがあったんですね〜」って言って、そこで初めて違う座り方というオプションがあったことに気がつく方が多いです。
姿勢のオプションをたくさん持っていることが、立っていても座っていても何をしているにしても大事。ひとつのの姿勢でずっといるということが、結局はどこかを痛めたり不具合が出てくる原因になっているから。
鮫島:(天使の椅子に座って)ぜんぜん違うからびっくりです!目の周りがカーっと開いていく感じ?パッキーン!みたいな(笑)。
椎名:そうなんですよ〜。覚醒する椅子なんです。目が開きますよね。しばらく座っていると、どんどんどんどん冴えてくるんですよ。
小笠原:シリオはね、足が開いてくる、開通する感じがする。
椎名:うん。シリオは骨盤とお尻が呼吸する椅子。
鮫島:あまりにも冴えるので、何が起こっているんだろうと思う・・・。胸のあたりも開く感じです。
河野:本当に生理的な機能が、イスで一瞬にして変わるんですよね。
椎名:そう。で、それを「骨盤を立てましょう!背骨を伸ばしましょう!」って形から入ってやっているんじゃなくて椅子の力によって自然にそういう自分の力が発揮されているっていうのが・・・。
小笠原:ね。理想ではありますと!
どうでしょう、孝太郎さん。オフィスワーカーの人がどうしたら座ることの中で楽でいられるか。その見つけ方やら、調整の仕方やら。
扇谷:見つけ方っていう意味でいうと、さっきちょっと出てたように楽ということの感覚が鈍っているから、「慣れている」ということと、「体が機能的になって楽になっている」ということの違いがなかなか最初のうちはわからないって言ってて。
「楽ってなんですか?」みたいな質問もありますから。
小笠原:多いですよね。
河野:自分が今いる状態が「普通」だと思っているので、それより楽なチョイスがあるとは思ったこともなくて生きているのが普通かもしれない。
小笠原:あと、内側の感覚で検証できるって、意外にに持っている人が少ないかも知れませんね。だから楽な位置を探してって言われても、そのチャンネルがないから探せなくって、骨盤の角度なんかを、言われたとおりに・・・手順があればその通りにやれば良くなるはずだ、と思っている方は多いんだと思います。
扇谷:うん。やっぱりいちばんリラックスしているかどうかの基準って呼吸の質だと思うんですけど、座っている間に楽に呼吸ができることと、立った時に呼吸がおかしくなってないってことがけっこう大事。特に腰痛の人なんかだと、腹式呼吸がいいってことで、お腹を膨らませたりへこませたりする呼吸がいいって言われていて・・・でもそれが結果として腰痛になってたりして。
一同:(笑)
扇谷:座った姿勢の中で呼吸をしていると、骨盤が、立った時のバランスを失っていきやすい。だから座っている時にちゃんと自分が呼吸できているっていう感覚を見つける必要がある。
立ってる時とか歩いている時とかいろんな時に、自分が楽に呼吸できている状態を学んでほしいと思います。
河野:それも学ばないとわからないってことですよね。
扇谷:椅子に座るって、自然に学習する範囲の動きじゃないから。いきなりラケット持たされて、テニスのボールを向こうのコートに打ち返せって言われても、普通はみんなできないわけで。そういう作業を実はみんなやってるんだという認識はあったほうがいいなと思います。
小笠原:椅子に座って楽にして、っていうことが、ラケット持たされてっていうのと同じくらいということ?
扇谷:そうそう、自転車乗れっていきなり言われてるような。椅子に楽に座るということは、ある種技術として習得していく必要があるからその入口になるのが「呼吸がちゃんとできるか」だと思う。
小笠原:普通の人がそれを学んでいくにはどうしたらいいんですか?ボディーワーカーのところに来てくださいって言う?(笑)手持ちのパターン以外の動かし方とか、あ、楽っていう感覚があるんだ、とかの学習ができることがボディーワークの利点であり、ボディーワークでしかできないことだと思うんですけれど、そのチョイスをしてくれる人はまだそんなに多くないですよね。メリットが腑に落ちていないと、「楽な状態を知りましょう」っていっても「いや、まず痛いのをとってほしいんだ」ってなりますよね。
椎名:さっき座るにも技術を洗練させていく必要があるっていってたけど、人の体もやっぱり、体を使う・・・動くとか、生きる技術を磨いてから死ぬまで一生進化させていくものっていう概念が今はほとんどないと思うんですよね。
だいたいある程度の年齢までいったらそこから先は老化っていうものになってしまうと思っているけど、本当は老化じゃなくて、体の使い方のうまくいっていないことによる蓄積で症状が出ているだけなのに、それも含めて老化というふうにひとくくりにして、薬をもらったり湿布を貼ったりみたいなことをしてしまうけど・・・。
やっぱり、自分の持っている体は自分の使いようによってどんなふうにも変わるんだっていうアイデアを広めていくしかないですよね。
小笠原:某寝具メーカーが若い人もベッドを選ぶ時に、いずれ介護ベッドになるベッドにしませんか?っていう提案をしてて・・・(苦笑)。寝たきりになるから、介護してもらうという前提で、今も使えるし、将来も使えるベッドを、って。そういう訴求で若い人にも売っていくんですよね。で、ベッドって何十年も使うかも知れないものであったりするからそういわれたら・・・みんなきっと自分も衰えていくものだっていう概念があって、それが自分で防げるとか、今日の座り方とか歩き方とか履いている靴とか、工夫によってそれが当然のように全員に介護が必要になるんじゃなくて、元気なまま歩ける状態で死ねるんだ、とは思っていない。老化やどこかが痛くなることは不可避なんだと、座っていたら腰痛になって当たり前だし、年をとったら介護ベッドは必要になるって、老後まで見たときの自分の健康に自分が介入できるっていうアイデアとか実感がないって、ちょっと苦しいなって思うんですよね。
椎名:自分の体に対して主体性がなくなりすぎているということになってしまったから・・・今までの時代の中で。
小笠原:だからそういう体との関わりをきっかけとしても一層ちゃんと選んでいくとか、高さを変えてどこが楽だろうか、どこが息をしやすいだろうかとか、最初はわからなくてもトライしているうちに、変えてみたらここがいいとかいわれてみればあっちの方がいやすいとか、意識を向けているうちにちょっとずつ育っていくというか。それも学んでいくことの一つになるのかな、と、今聞いてて思ったんですけど。
扇谷:(鮫島をみて)きょとんとしてる。
鮫島:きょとんとしてないです!(笑)でも、椅子はインパクトがあるなと思いました。座ってみたらいきなり体が喜ぶというか、開くというか。脳が覚醒するんですよねってボディーワーカーたちが話していても、読んでいる人は「なんのこと?」ってなると思うんですけど、それを体験していないから。でも座ってみるとああ、こういうことかってわかるのには、椅子は導入として力強いツールじゃないかなと、今日すごく思いました。
なんかもう、多幸感なんですよね(笑)。「今、わたしなんでもできそう!」みたいな。それが続いています。空気も、こんなに自分の体に入るんだ!って感じるし、ロルフィングを受けたあとに、呼吸が胸だけじゃなくて身体全部に入っていく感じと同じ感覚があるから。もうみんな、椅子を買えばいいんじゃないですか?
一同:笑
鮫島:オフィスはもう仕方ないとしても、お家用に。おしゃれだし(笑)。インテリアとしてもオーケーですよね。
小笠原:椅子のショールームとかにはこういうシリオとか天使の椅子のような椅子ってないもんね。いい椅子を選ぼうと思って、オフィスチェアやダイニングチェアのところにいっても、こういう人体っていう・・・ねえ、人間工学も実はちょっと違ったりとかするので。
椎名:そういうショップがあったらいいですね。身体にいい椅子とか。
小笠原:じゃあやりますか。Magellanでリアル店舗。
椎名:座ったらわかりますからね。
小笠原:あとはオフィスに出向いて、その人の椅子をいい高さに調整してあげたりとかできると思うんですよね。あるいは足の置き方とか、この方が自然じゃないですか?って提案してあげたりとかできると思うんですよね。
鮫島:産業カウンセラーと一緒に、産業ボディーワーカーがいてもいいかも。
小笠原:オフィスグリコとかみたいに、オフィスボディーワーカーを派遣したい!
イスをきっかけに、
ある程度の年令になったらカラダの不具合は歳のせい・・・そんな風に諦めてしまわずに、
ちょっとの工夫を続けたり、「私にとってこれはほんとうに心地よいのか?」「もっと楽で自然なあり方って
あるんじゃないだろうか?」そんな風に貪欲に、「さらなる快」を探求していくことが出来るんだよ、
ぜひ探求して欲しい!というボディーワーカー達の思いまで発展してきました。
それにしても私も日々色んな所で教えていて思うのです。
「呼吸が楽という状態をみんなに知ってほしい!」。Magellanで呼吸改善全国ツアーやろうかしら??
扇谷孝太郎(おおぎやこうたろう)
1995年、演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と表現についての探求を始める。2001年、ロルファー(ロルフィング®の施術者)の資格を取得し公務員から転身。現在は恵比寿にてロルフィングを中心に、ボディワークとトラウマセラピーの個人セッションを行う。ワークショップも多数開催し、独自の視点でまとめられた「動くための解剖学」がダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを求める人々から高い支持を得ている。また朗読を中心に、カラダから生まれる声と表現についての探求を続けている。
・Dr. Ida Rolf Institute™認定アドバンストロルファー
・Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルフムーブメントプラクティショナー
・クラニオセイクラルプラクティショナー
・ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー
http://www.rolfing-jp.com/
河野 由紀
オステオパス ピラティストレーナー
2003年よりピラティスを指導
ピラティスムーブメントスペースにて資格取得
器具を使う個人セッションとグループクラスを実施
効果的なセッションのために広く深く身体を
理解する必要を感じて
ボディワークや解剖学の勉強続ける
2014年からオステオパシーを勉強
臨床.教育共に経験豊かな海外のオステオパスから
5年間に渡り国際基準に沿ったプログラムで研修中
2017年臨床試験を経て臨床許可を与えられる
クライアントは子供から年配の方まで幅広い
https://yuki-kono.jimdofree.com/
椎名 亜希子
「重力と調和したからだ」をつくるアメリカ生まれのボディーワーク、ロルフィング®の施術者。IT業界で翻訳やマーケティングに携わっていた会社員時代、趣味のクラシックバレエを通じてボディーワークに出会う。さまざまな悩みに希望を与えてくれたロルフィングに可能性を感じロルファーに転身。個人セッションのほかワークショップを開催し、感じる力を取り戻し、自分らしく生きるためのからだ作りを探求中。趣味はバレエと登山とボルダリング。
Dr. Ida Rolf Institute™認定ロルファー
クラニオセイクラルプラクティショナー
訳書に『感じる力でからだが変わる:新しい姿勢のルール』(春秋社)
http://rolfing-spiro.com/